2017年01月30日

腰砕けの政治報道、官邸のお先棒 上田新会長はNHK立て直しの先頭に=永田浩三

 1月25日、NHKの会長が交代する。「政府が右と言うものを左と言うわけにいかない」「慰安所は戦争のあるところどこにでもあった」「原発報道は公的機関の発表を中心に行う」など、次々に問題発言を繰り返してきた籾井勝人氏の任期が満了した。就任当日から始めた辞任要求は力及ばずではあったが、再選だけは阻止できた。
 NHKOBとジャーナリスト・研究者の有志は去年暮れ、こんな人に会長になってほしいという候補を選んだ。落合恵子氏・広渡清吾氏・村松泰子氏の三氏。落合氏はアナウンサーも務めた社会運動家。広渡氏は日本学術会議会長を務め、安保法制反対の声を上げた。村松氏はNHK放送文化研究所で研究に携わり、東京学芸大学学長を務めた。三人とも公共放送のありようを一緒に考えようということで、候補として名前を出すことを了承してくださった。交渉に関わったひとりとしてお礼申し上げたい。
 結果的には、われわれの希望は叶わず、新会長には経営委員会のメンバーだった上田良一氏に決まった。

■気骨ある見解を示せ

 上田氏はこれまでは専任の経営委員だった。ハイヤー問題で籾井氏の責任を問うたこともある。しかし上田氏がどんな人なのか知る手掛かりは多くない。去年5月、上田氏は函館で開かれた「視聴者のみなさまと語る会」でこんな言葉を残している。
「放送やジャーナリズムが国家権力に追随するような形は必ずしも望ましい形ではありません……」。NHKをジャーナリズムの砦だと認識していることは歓迎したいし、内部からの期待も大きい。この稿が活字になる頃は会長に就任している上田氏が、気骨ある見識を示し、公共放送立て直しの先頭に立っていてほしい。
 だが現実は甘くない。NHKの政治報道は目を覆わんばかりだ。日ロ交渉では、領土返還は見込めないにもかかわらず官邸のお先棒を担いだ。NHKニュースは45分かけて成果を強調した。「外交の舞台裏」を取り上げたNHKスペシャルでは、安倍総理を交えての検討場面を記録した映像を、官邸から提供されたという情報がある中で、あたかもNHKのスクープ映像だと誤解させるような使い方をした。取材対象に喰い込むにしても一体となってはならない。

■偽ニュースの検証を

 オックスフォード英語辞書は、昨年を象徴する言葉として「ポスト真実」を選んだ。ポスト真実とは真実のあとに来るもの。嘘が平気でまかり通る社会を意味する。その体現者としてトランプ氏や安倍総理の名前があげられた。社会的に影響力のある権力者たちが嘘をつき、メディアがそれを垂れ流す風潮は、未来への破滅をもたらす。
 新年、英国BBCは政治家の発言が事実に基づいているかをチェックし、フェイクニュースの検証を始めるとした。同じ公共放送としてNHKもそうした気概を見習い、ぜひ生まれ変わってもらいたい。

(武蔵大学教授・元NHKプロデューサー)


*JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2017年1月25日号

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