2月に刊行された『AI vs 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社)という本の売れ行きが好調で20万部に迫る勢いだという。著者は国立情報学研究所の新井紀子教授。「ロボットは東大に入れるか」(東ロボくん)プロジェクトを率いた数学者だ。出版不況社会でこの「専門書」が多くの読者を獲得している背景はなんだろうか。毎日新聞4月17日夕刊「特集ワイド」がこの問に答えようとしている。
「東ロボくん」が首都圏・関西圏の有名私大に合格できるレベルになったとの結果を得た新井教授は、「物事の意味を理解すること」ができないはずのAIがなぜ?と中高校生の基礎的な読解力を調査するためのテストを開発、実施する。その結果が「教科書を読めない子どもたち」の比率の圧倒的高さだった。
テストの一例が紙面に紹介されている。「メジャーリーグの選手のうち28%は米合衆国以外の出身の選手であるが、その出身国をみるとドミニカ共和国がもっとも多くおよそ35%である。」という文章を読み、示された4つの円グラフからこの文章に適合的なものを一つ選ぶというかなり易しい問題だ。ところが正答率は中学生で12%、高校生で28%だった。同じ問題をTVバラエティ番組で今年度の東大入学者に資したところ正解率は52%だったという。新井教授ならずとも衝撃を受ける数字だ。
誤答の原因は、問題文の「以外の」「のうち」などの語句を読み飛ばしているか語法が分かってないことにあるという。そしてこうした読み方はAIと共通しているというのだ。「日本の教育は、記憶力や計算力などAIによって代替えされてしまうような能力を伸ばす方向ばかり注力していた、ということなのか」と慨嘆する記者。読解力がないのは子どもたちだけではなく大人もということである。それはSNSや日常会話での誤解や曲解に、さらにはフェイクニュースが拡散していくことにもつながる。
新井教授が民主主義の危機と捉えるのはそのためである。「民主主義は社会を構成する市民が<論理>を土台にして議論できる」ことを前提にしている。「読解力のない」人びとが多ければ多いほど「論理」は後退していく。国会でのディスコミュニケーションはそのことを典型的に示していよう。
働き方改革のデタラメ資料、森友・加計学園・自衛隊日報問題など今国会での「論理のないがしろ」はひどく、倫理的にも許されるものではない。新井教授は、「自衛隊が活動している地域が非戦闘地域」という小泉純一郎元首相のトートロジーにはまだ冗談という空気があったが、今国会では「何がトートロジーか分からず言って」おり、「聞く方もトートロジーかどうか理解できない人が半分位になってしまったのでは」と懸念する。
AI武器の開発も進んでいる。時代を読む力をもっと付けねばなるまい。