2018年05月10日

≪おすすめ本≫ 樋田 毅『記者襲撃  赤報隊事件30年目の真実』─犯人を追った取材過程を明かす、「反日」攻撃にひるまぬ記者の矜持=藤森 研(元朝日新聞記者)

 1987年、朝日新聞阪神支局を目出し帽の男が襲い、銃で記者1人を殺し、1人に重傷を負わせた。その犯人を、30年間追った朝日新聞記者による書き下ろし。

 「反日朝日は五十年前にかえれ」。そんな犯行声明から、取材対象は主に右翼団体や、朝日と対立していた宗教団体の関係者に絞られた。取材は、さまざまな情報から疑いのある人物を一人ひとり「潰していく」作業だ。
 居場所を割り出し、訪れて対面し、事件との関係の有無を問う。数十人に囲まれ罵声を浴びもするが、正面から取材意図を告げる樋田記者の姿勢に心を開く右翼もいた。
 口の重いある人物とは数十回にわたり取材を重ねる。緊迫した一問一答を含め、ここまで取材過程を明かすのかと驚くほど内容は生々しい。多くの人に、事件とその意味を共有してほしいと願う著者の思いゆえだ。

 本書にも書かれた宗教絡みの「霊感商法」を、朝日ジャーナルで追及していた私にも、事件は衝撃で、阪神支局に駆け付けた。その後、朝日新聞の戦争協力を自己検証する取材を共にし、樋田記者の人柄を知った。
 正義感は強いが、力まず事実だけを追うタイプだ。30年間も特命でこの事件の取材を粘り強く続けられたのは、彼だからだと思う。いまだに犯人は不明。樋田氏は朝日を定年退職した後も、犯人を追い続けると、その覚悟を淡々と記している。

 かつては「反日」という言葉は、テロ犯にしか用いられなかった。今はネットや雑誌などに氾濫する時代となった。排外的で攻撃的な空気に、今こそジャーナリストも市民も怯んではならない。そう考えさせられる書だ。
(岩波書店1900円)
「記者襲撃」.jpg
posted by JCJ at 19:23 | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする