2018年07月06日

≪リレー時評≫ ひとり出版社から本の大切さを学ぶ=守屋龍一(JCJ代表委員)

  絵本『花ばぁば』(クォン・ユンドク絵/文)が、4月末に出版された。日本軍「慰安婦」にされた韓国人女性シムさんの物語である。彼女の好きだった花を、著者は水彩タッチで描き、全42ページを使って展開する〈恐ろしい話〉の絵の周囲に、今は亡き彼女の霊を癒すように散りばめている。
  声高に叫ぶのでなく、淡い色の滲む絵が、戦時性暴力に対する深い洞察へと昇華されていく。読後、熱き想いに浸された。
 この絵本を出版した、ひとり出版社「ころから」(東京都北区赤羽)を訪ねた。代表の木瀬貴吉さんは、
  「ある出版社でとん挫した翻訳刊行を、うちで手掛けることになったんです。だが多額な製作費の捻出に困り、今年の1月、製作費の一部をクラウド・ファンディングで募ったところ、開始から4日目で目標額95万円を突破、最終的には202人188万円の資金が寄せられた。お蔵入りの危機を救ったのは、日本の良心ある人達でした」
  と、述懐する。

  木瀬さんは、ピーズボードの事務局で15年、その後、出版社で3年修行し、2013年1月に「ころから」を起ちあげた。〈コロから車輪へ〉と発展するよう願っての命名という。
  2014年3月11日刊の加藤直樹『九月、東京の路上で─1923年関東大震災ジェノサイドの残響』が評判となり、今や6刷まできた。
  木瀬さんは「直に介入する官庁がない出版はフェアな業界、まず企画で勝負、資本の大きさではない」と言うものの、「『花ばぁば』を置いてくれる書店が極めて少ない」事態には、眉をしかめる。
  始業して5年、21点刊行、順調に進級している。

  一方、4月末、ひとり出版社「リベルタ出版」(東京都千代田区猿楽町)が、31年の出版活動に幕を下ろした。このほど代表・田悟恒雄さんの慰労を兼ねた卒業式≠ェ、後楽園「涵徳亭」で賑やかに行われた。
  田悟さんは大月書店の編集者を経て、イタリアのマルクス主義思想家アントニオ・グラムシ『獄中ノート』(校訂版)を翻訳刊行したく、1987年9月に創業。社名もイタリア語の自由=リベルタからとっている。
  だが最初に刊行したのは、前年に起きたチェルノブイリ原発事故がテーマの、ウラジーミル・グーバレフ『石棺─チェルノブイリの黙示録』。以後、年間ほぼ6冊、原発・環境・メディアを柱に約210点を刊行してきた。田悟さんは言う。
  「他人に迷惑をかけず、本カバーのPP貼りを止めるなど環境に負荷をかけず、ひとりでどこまでできるか、これを目標にやってきた」。さらに「出版とは自己実現の手段であり、人と人との出会いを媒介する重要な仕事。そこから生み出される豊かな関係は、カネで贖えるものではない」と。
  ひとり出版社の2人の歩みを聞かせていただくと、出版の大切さが身に染みる。
posted by JCJ at 10:00 | <リレー時評> | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする