2018年09月07日

【日韓学生フォーラム】 原爆と報道を考える場に 広島の式典取材し 中国新聞を訪問=古川英一

 8月6日の広島。地元の人に言わせると、今年は特別暑いとのこと。その暑さの中、私たちは広島で様々な声を聞き、そして発した。「私たち」とは、2回目を迎えた日韓学生フォーラムに参加した学生30人余りと、実行委員で同行したメディアの記者OBら総勢約50人のこと。ジャーナリストを目指す日韓の学生に、様々な現場を見てもらい、相互交流を図る企画だ。

空虚な首相挨拶

8月5日から3泊4日、学生たちは広島市内のゲストハウスで合宿≠オた。戦後73年の原爆の日に、原爆ドームに近い平和記念公園に向かった。

平和記念式典。朝から立っているだけで汗がふき出す。私は会場には入れず、公園の一角でスピーカーから安倍首相の挨拶を聞いた。

昨年の夏、国連で核兵器禁止条約が採択されたこと、さらに秋にICANがノーベル平和賞を受賞したこと、いずれも被爆地・広島の人々にとってはかけがえのない出来事であるはずだ。だが、安倍首相は一言も言及しなかった。

安倍首相が発した言葉は、私が広島で聞いた声の中で最も空虚なものだった。この空虚さに、一瞬途方に暮れた。原爆投下の悲惨さをどう伝え、核廃絶の声をどう国内外に広げていったらよいのか。問いが頭の中をめぐった。

6日午後に、中国新聞本社を訪問し、これらの問題と長年、格闘してきたジャーナリストの話を学生たちと一緒に聞いた。話し手は同紙の江種則貴特別編集委員だ。紙面づくりが一年でも最も忙しい日であるにもかかわらず、快く時間を割いてくれた。編集局の見学もできた。

新しい発見ある

江種氏は、広島には原爆の体験が根づいていること、同時に日常の暮らしと被爆体験が遠くなっていることを指摘した。広島を被害者としてとらえるだけでなく、戦争での日本の加害責任についても報道してきたという。「被爆者に加害責任を語ってもらおうとは思わない。加害責任を踏まえたうえで、広島はまず被爆者の声を伝えるのが役割だ」と語った。

飛び入りで、この場に参加したのは朝日新聞OBで、原爆報道に長年関わってきた岩垂弘さんだ。岩垂さんは「毎年8月6日は広島の地に立つ」ことを決意して実行してきた。「原爆の問題は根が深く、まだほとんど知られていない。広島を49回訪れても新しい発見がある」と話した。

翌7日は、元広島市長の平岡敬さんに講演してもらった=2面参照。中国新聞の記者時代に韓国人被爆者問題に取り組み、埋もれた被害を世にアピールした。この講演会は学生のほか、地元市民も参加できる日韓フォーラム独自の企画として開いた。

平岡さんは90歳を超えても、その内面から発するバイタリティに圧倒される。ソフトな語り口に、思わず引き込まれてしまう。「記者をつき動かしているのは、社会の不正義への怒りだ。そして弱者の立場に立つことが欠かせない。その一つが私にとって韓国人被爆者問題だった」と振り返った。

平岡さんは取材を通して韓国人被爆者の支援運動に関わっていく。迷いながらの行動だった。「ジャーナリストは当事者になってはならない鉄則がある。客観報道をすべきだと。その鉄則を踏み外して救援運動に加わった。当事者となることがいいのかどうか。でもそれは人間として許されるのではないか」。今でも平岡さんの自問は続くという。

学生たちは講演後も、昼食を一緒に取りながら、平岡さんを囲んで質問攻めに。平岡さんは「何のためにジャーナリストになるかが問われる。何でもいいから、自分はこういうことをやるために記者になる、ということを大事にしてほしい」と学生たちに助言した。

教師の像に感動

日韓フォーラムの最後は、参加者が期間中に一番感銘を受けたことを、スマホで撮影した写真を前に語る「マイベストショット」の時間だ。学生たちは夜遅く、未明まで語らい、交流を深めた。それぞれが見たもの、視点、感じ方は千差万別。その声をいくつか紹介したい。

広島県出身の女子学生は、平和記念式典の会場で黙とうの際、そっと亡き父親の遺影を取り出す男性を見た。聞くと被爆2世で、今は語り部の伝承者として活動をしているという。その姿を見て「大切な人を忘れないジャーナリストになりたい」と彼女は語った。

 韓国の女子学生は平和公園にある、教え子を抱きかかえる教師の像の前で、自分より弱い存在を助けようとした教師に感動する。そして被爆者の問題に取り組む日本こそが平和のメッセージを発信してほしいと呼びかけた。

日本、韓国、それに中国からの留学生と何人かで、メッセージを書いた灯ろうを流したという男子学生は「一緒に流した仲間がこれから何になるにせよ、同じ方向を向いて行けたならと淡い希望を感じ、少し幸せな気持ちになった」と話した。

広島で聞いた多くの声、自分たちが発した声はこれからの糧になっていくに違いない。昨年11月にソウルで初めて開催した「ジャーナリストを目指す日韓学生フォーラム」はまた一つ、大きな収穫を得た。      

古川英一

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年8月25日号
posted by JCJ at 14:59 | Editorial&Column | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする