2018年10月11日

【JCJ賞贈賞式記念講演】 日本メディアと国際報道 「ワシントン情報」に偏りすぎ=猿田佐世

 国際弁護士・猿田佐世さんによる「日本のメディアと国際報道」と題した記念講演の要旨は次の通り。

 首都ワシントンの人口は70万人。アメリカの権力の中枢だが日本の政治に関心のある人はごくわずかだ。そこにいる日本人は日本政府、大企業、大メディアの人がほとんどで、彼らがアーミテージやマイケル・グリーンなど一部の「知日派」の発言を取り上げることで、「アメリカの声」を作ってきた。

独自取材を増やせ
 ワシントンにいる日本の記者は60人ほどで、韓国と並んで非常に多い。しかし大量の英語情報の対応に忙殺され、調査報道や町の声を拾うことはほとんどない。
 もっと通信社を利用して時間を作り、その分独自取材を増やすべきだ。
 記者の英語力が不十分という問題もある。ある記者によると本当に英語で取材ができるのは、60人のうち10人ぐらいではないかとのことだ。

 疑問に思った例をいくつか挙げる。この7月、トランプ大統領が独断で米韓軍事演習を中止したことに対し、大統領予備選挙で旋風を起こしたバニー・サンダース事務所に聞いたところ、「大統領が韓国政府や国防長官に相談しなかったのは問題だが、演習の一時中止や縮小は好ましい方向」と言っていた。リベラルな大手紙の記者に取材しないかと持ち掛けたところ、サンダースの発言では東京で使ってもらえないかもしれないのでやめておくとの返事だった。マイケル・グリーンの名を知っているアメリカ人はほとんどいないが、サンダースの名前を知らない人はいない。

 国務省の核不拡散担当の高官の任命を承認するかどうかの審議で、上院議員が「日米原子力協定の改定をすべきでは」と候補者に質問した。日本人の記者に情報提供したが、候補者の回答に新味がないとして、ほとんど取り上げられなかった。上院議員が日米原子力協定について質問すること自体が相当なニュース価値があるのだが……。
 2009年に民主党政権ができた時、日本のテレビ局が民主党政権になって日米関係はどうなると思うか、を聞くシール投票を行った。だがその投票を行ったのは保守系シンクタンクの日本関連シンポジウムの会場の近くで、参加者には日本人も多く、回答者の半分は日本人だった。
 そのころ留学生だった私もシールを貼るよう勧められた。テレビ局の人はメディア関係者でなければ誰でもいいと会社に言われているといっていた。
 おそらく、日本でシール投票の結果は、アメリカ人に日本の選挙結果を聞きましたとだけ伝えられただろう。保守系シンクタンクの会場で調査すれば、日米関係が懸念されるという答えが多数になるのは当然だ。

一辺倒記事ばかり
 トランプが大統領選で勝った時、日本の報道は「これからどうなる」「日米関係は大変だ」一辺倒だった。これを機会に日米関係を見直してみようという論調は、リベラル紙にもなかった。「いまの日米関係はおかしい」と言いながら、オルタナティブ(代替手段)を考えられない日本のメディアには失望させられる。
 18年4月の朝日新聞の「日米安保はいま」という特集でも、取り上げたのは相変わらずアーミテージやマイケル・グリーンたち、トランプ政権で何の影響力もなくなった知日派だ。いくら大統領が代ろうと、その下で既存の体制を固めてきた層が、日本のメディアを利用して政権の影響力を及ぼそうとしている。

米国の言い分優先
 ドイツの政党はワシントンに事務所を置いている。かつて日本が原発ゼロにしようとして、アメリカに反対され断念したことを話したところ、保守の党から左派まですべての党の人が「なんで国内の政策決定にアメリカの言うことを聞くのか」と不審がった。部外者の目から見て、メディアが米国報道を改善するには、様々な経歴の記者を派遣する、もっと通信社を利用する、英語のできる記者を送る、ワシントン勤務を出世コースとして位置づけないことが重要だ。

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年9月25日号
posted by JCJ at 14:29 | JCJ賞情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする