2018年10月30日

【編集長EYE】 教育充実にも国家主義思想入り込む=橋詰雅博

 自民党は、衆参両院の憲法審査会で党の4項目改憲条文案を説明する。4項目は9条に自衛隊を明記、緊急事態条項の創設、参院選挙区の合区解消に加えて教育の充実だ。この中で教育の充実の中身は一般にあまり知られていない。その条文案では、第26条の第1項(教育を受ける権利)と第2項(教育の義務)は現行のままだが、第3項を加えている。加憲された文章は次の通りだ。

<国は、教育が国民一人ひとりの人格の完成を目指し、その幸福の追求にかくことのできないものであり、かつ、国の未来を切り拓く上で極めて重要な役割を担うものであることに鑑み、各個人の経済的な理由にかかわらず教育を受ける機会を確保することを含め、教育環境の整備に努めなければならない>

 9月初旬に都内で講演した前川喜平・元文部科学省事務次官(63)は、この第3項をこう批判した。

 「『教育は国の未来を切り拓く上で重要だから環境を整備する』としている部分が問題です。逆に言えば、国の未来を切り拓けそうもない人間は対象外と解釈できます。ここに安倍晋三首賞の国家優先思想が混じり込んでいます。今春から小学校で教科として取り入れられた道徳もその一環です。

 戦後は個人重視と国家主義がずっとせめぎ合ってきたが、第2次安倍内閣以降は、国家の力が強くなっている。全体主義と言い換えてもいい考えが台頭し、その勢いを増しています」

  前川さんは79年4月当時の文部省に入省し、2017年1月退官した。40年近く行政官を務めてきた。

 「長年の行政官生活で痛感したのは『こんな程度の政治家をなぜ国民は選ぶのか』でした。そんな有権者が日本におびただしくいます。やはり民主主義を勝ち取っていないことが淵源です」

 そして今の世の中をこれほどまでに悪くしているのは「忖度だ」と指弾した。

 本紙インタビューに応じた1年ほど前よりも、前川さんは舌鋒鋭く安倍首相を攻撃している。

橋詰雅博

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年10月25日号
posted by JCJ at 11:14 | Editorial&Column | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする