全国交流集会2日目の10月20日、阿蘇医療センターを視察した。病院は熊本地震で震度6弱などの強い揺れに襲われたが、目立った被害はなく、DMAT(災害医療派遣チーム)など医療支援の拠点としての機能を果たした。強力な免震装置が有効に働き、その他にも誰でも利用できるWi-Fi(無線LAN)環境の整備など先進的な災害対策に取り組んできた成果が発揮された。ヘリポートも一般的な「屋上」にではなく、あえて地上に設置することで、万一、建物に被害が出ても地上であればヘリが着陸する可能性が高まると想定したことも功を奏した。
患者らは気づかず
阿蘇医療センターの甲斐豊院長の説明によると、建物を支える柱は1階直下へ伸び、それぞれの柱の下に設置された免震装置が受け止める。72基の免新装置の上に病院全体が乗る形で、地面からは浮いている。免震装置は、外観がゴムの筒状で強く押せばへこむ程度の硬度。その内部は鉄鋼版とゴム層が何重にも重なり、鉛の芯が中心部にあり、一基あたり400〜500トンを支えることができる。
地震による衝撃を建物に直接伝えず、ゆるやかな揺れに変える。地震がおさまったあとは、ゴムの持っている復元力で、建物を元の位置に戻す。配管や地下へ続く階段も地面からは浮かせて病院建物側に固定されている。地震時は建物と共にゆれることで破損を防ぐ。
こうした機能が発揮されたことから、熊本地震が起こった夜の時間、スタッフはゆったりしたゆれを感じたが、患者らは気づかず眠っていたという。熊本地震時の揺れ方の記録が残されており、本来の病院の定位置から北に50センチ弱、南北に最大触れ幅87センチ、病院が動いていた。
情報過疎も免れる
もう1つの特徴が「地上ヘリポート」だ。病院などでは「屋上ヘリポート」が一般的だが、阿蘇医療センターではあえて地上の駐車場横に設置。建物に多少の損傷があった場合にエレベーターが使えず、屋上から階下に患者や器材などを下ろせない事態を避けることができた。さらに、地震前に無料のWi-Fi(無線LAN)を設置していたことで、情報や連絡を常時取れていたため「情報過疎」を免れることが出来た。
甲斐院長は「こうした設備や工夫が上手く噛み合い、周囲は被災したが医療センターは全ての機能が生きており、病院の機能や災害支援チームの受け入れなどに支障が出ることがなかった」と話した。取材ツアー参加者からは「災害に備える1つのモデルケース。詳しく知りたい」と質問が相次いだ。
杉山正隆
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年11月25日号