2019年01月09日

【映画の鏡】 ホロコースト逃れた88歳 『家へ帰ろう』 仕立てたスーツを届ける旅=今井 潤

アルゼンチンに住むユダヤ人の仕立て屋アブラハム88歳は自分を施設に入れようとする家族から逃れ、スペイン、フランスを経てポーランドへ向かうための旅に出る。アブラハムの旅の目的は自分が仕立てたスーツを友人に届けることだ。

 友人はホロコーストから逃れたアブラハムを父親とけんかをしてまで匿った命の恩人だ。最終目的地のウッチは第2次大戦中にナチスによってユダヤ人30万人、ポーランド人1万人以上が犠牲になったところだ。

過酷なホロコースト体験からポーランドとドイツという言葉を口にしないアブラハムはゆく先々で人々をてこずらせる。マドリッドのホテルの女主人、パリからドイツを通らずポーランドへ列車で訪れることが出来ないかと四苦八苦するアブラハムを助けるドイツ人

の文化人類学者など、旅の途中で出会う人たちはアブラハムの力になろうと手助けするシーンが続く。

 そしてたどり着いたウッチの街は70年前と同じたたずまいをしていた。アブラハムは親友と再会できるのか、奇跡は起きるのか。

 ブエノスアイレス出身のソラレス監督は自身の祖父の家では「ポーランド」という言葉がタブーであったことから発想を得て、この感動作を完成させた。

 主人公のアブラハムの着ているジャケットの色もエンジやグリーンの立縞で、いつも違うアスコットタイを首に巻いているのは何ともおしゃれで、衣装担当者のセンスが光っている。

(公開は12月15日土曜日から神田岩波ホール)

今井 潤



JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2018年12月25日号
posted by JCJ at 14:43 | Editorial&Column | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする