2019年03月09日

【国内政治】 地に落ちた統計の信用 企業・大学などに悪影響計り知れず 政治的思惑か忖度か=岡田敏明

 国の統計をめぐる問題が注目を集めている。
 いったい何が起きているのか。厚生労働省が、毎月勤労統計を不正な方法で調査していた。全数調査すべきところを抽出調査していたが、いきなり全数調査に近づける補正が行われたことから名目賃金が異常に上昇。補正は2018年から行われたが、17年以前分は補正されなかったため対比ができなくなった。

基幹の4割に問題
 毎勤統計の不正を調査する特別監査委員会の報告書問題もあったほか、不正は厚生労働省だけではなく、政府の基幹統計全体のなんと4割に問題が見つかっている。政府は新年度予算案を修正、閣議決定をし直す異例の事態に追い込まれた。雇用保険などを過少給付されていた対象者はさらに拡大する可能性がある。
 さらに毎勤統計の調査対象の入れ替えでは、首相秘書官が「問題意識」を伝え、その結果賃金の伸び率が上ぶれしたことなども明らかになった。
 単なる行政ミスが重なったわけではない。政治的な思惑か、官僚サイドでの忖度が働いたのか。不正の隠蔽と虚偽報告等々、疑惑は広がっている。
 日本の統計の信用は、地に落ちた、というべきだろう。

統計委員会の役割
 政府は「世界に冠たる日本の統計」などと自賛し、国際協力として途上国への援助もしてきた。その統計が揺らぎ、国の信用が毀損している。
 今回の一連の報道で統計委員会という存在を知った人も多いと思う。実は、2007年5月に新統計法が成立、60年ぶりに統計の基本法が改正された。この法律で統計委員会が設置された。
 旧統計法は、戦前から戦中にかけての経験に対する反省を踏まえ、積極的に統計体系の整備を図るために、各種統計調査に共通することを規定。指定統計調査および届出統計調査に関する事項等を規定していた。

 旧法は本文23条という小さな法律だったが、世論調査・意識調査などを法の範囲外として意見や意識という面にまで国が入り込むことを避けたという特徴があった。新法は本文64条からなるが旧法の精神を継承し、公的機関が作成する統計全般を対象とした法律に改編された。これまで官庁統計とか政府統計と呼ばれていたものを「公的統計」という名前に統一し、併せて統計データの二次利用促進を明記している。

 最近は、統計を「社会の情報基盤」という言い方をする。新統計法は、社会に必要とされる公的統計が効率的に、しかも人々に役立つように作るためのルールを定める。公的統計の作成、提供の手続、 統計調査で集めた個人や会社の秘密の保護、 全体としてムダなく効率的に統計を整備していくための仕組みなどを規定する。
 5年に一度行われる国勢調査のように国の基本となる特に重要な統計を作るための調査を 「基幹統計調査」というが、 その作成から結果公表に至るまで、 調査を実施する機関は厳しく規制される。統計の数字を都合良く変えたり、 公表前に結果を漏らしたりすることも禁止されている。毎勤統計も56ある基幹統計の一つである。

 西村芿彦統計委員長は「統計委員会では、統計技術的観点から毎月勤労統計及び毎月勤労統計調査の精度向上に多くの審議時間を費やし、厚生労働省にその改善を促してきており本事案は極めて残念である」と厳しく指摘した。事態は深刻だ。
 統計法は基幹統計調査に関して調査対象になった人や会社に回答の義務を定める。回答拒否や虚偽回答には罰則もある。
 国の重要な統計が正確に作れなければ、国や自治体だけでなく、民間企業や大学、統計データを使うすべての人々への影響は計り知れない。国民生活に直結する。
 かつてマルクスが資本主義研究を「資本論」に結実させたのは統計があって可能だったし、最近のトマ・ピケティの「21世紀の資本」も統計あってこそ成し遂げられたことは記憶に新しい。

役所に分散が問題
 この統計不正問題の背景として考えておかなければならないのは、統計部門が「行政改革」の名によるリストラの対象になったことである。04年当時6247人居た統計職員が18年4月には1940人と3分の1以下にまで大幅に減らされている。そして関連予算が削減されていた。統計に対する思想的退廃が見て取れる。
不正の意図は、長年まかり通っていたのはなぜか。―全貌を明らかにするのは重要課題である。 同時に、日本の公的な統計が各府省で分散されているという問題がある。この分散型の統計制度に対し、統計委員会を設置することで「司令塔」としての役割が期待されたのであるが、この制度で十分かも検討すべきである。統計を統合した中央官庁を新たに設置することも重要な選択肢であることを指摘しておきたい。

岡田俊明(元青山学院大学招聘教授・税理士)

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年2月25日号
posted by JCJ at 17:12 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする