2019年04月27日

【内政】 野党の自滅 北海道知事選 ヒト・モノ・カネなし「保守王国」へ転落=徃住嘉文

47都道府県唯一の与野党対決といわれた北海道知事選の内実は、離合集散の果ての野党の自滅と、戦前の官選知事に戻ったかのような与党の後進性という政治の低迷だ。

「色がバラバラだ」。3月31日、札幌で開かれた野党統一候補、石川知裕元衆院議員(45)の街頭演説に、ベテラン運動員は仰天した。イメージカラーの青が、候補のたすき、のぼり、チラシで微妙に違う。「ぱっと色を見ただけで有権者の深層心理が候補に繋がるよう、色番号を統一して発注する。選挙戦の基本の基なのに…」。運動員は天を仰いだ。

3月25日の参院予算委。JR北海道への国の財政支援の答弁で、麻生太郎財務相が札幌を「奥地」「奥地」と繰り返した。質問者は北海道選出の国民民主党、徳永エリ氏だが「適切ではない」と言うだけ。前日には、桜田義孝五輪相も「(3.11の時)国道とか交通、東北自動車道も健全に動いていたからよかった」と失言していたが、徳永氏は「発言で失敗しないでほしい」と怒らない。

 政界だけでない。リベラルで知られる地元新聞も「奥地」発言について一面コラムで「函館ではそう言う」「発言は不適切とも言えまい」と報じた。麻生氏が繰り返す民主主義や人権への暴言と同根ではないかという問題意識に筆は至らず、ネットでは「横路孝弘元衆院議長、鳩山由紀夫元首相らが健在だったら、あんなこと言わせなかった」との嘆きが流れた。

すべての原因をひとつに求めることが無理とはいえ、かつての社会党王国は、民主党、民進党、立憲と国民へと続く離合集散で、その力を減じてきた。広い北海道を回るには少なくとも知事選の2年前には候補を決めるのが常道だ。その2年前に起きたのは民進党の分裂。市町村レベルで立憲、国民の組織が固まったのは昨年。立憲は半年前、逢坂誠二政調会長擁立に動いたが、3カ月前に断られ、今年2月、急遽、石川氏を擁立した。短期決戦を制する人、物、金は、もはやなかった。

他方、最高裁からNHKまで人事掌握を追求する安倍晋三政権にあって、知事選はまるで地方人事のようだった。5選の声もあった高橋はるみ知事は、後継に鈴木直道夕張市長(38)を示唆しながら明言を避け、自民党道議や地元経済界は元国交省北海道局長担ぎ出しに走った。

 鈴木氏は、東京都職員から財政破たんした夕張市に応援で入り2011年、夕張市長に当選した。破たん時の総務相が菅義偉官房長官。法政大の先輩で、再建をめぐり頻繁に相談する間柄だ。道議側にすれば、国の言う通りに動く若いよそ者の破産管財人に過ぎず、知事になれば自分たちの既得権益に口出しするかもしれない。気心の知れた元役人の方が安心という流れに高橋知事も乗りかけたところ、政治生命を絶たれる、と察知した鈴木氏は1月29日、無所属での出馬を表明。すると、公明党が真っ先に推薦を決め、これに官邸の意向を読んだ動きが広まるなどして自民の推薦が決まった。菅長官が札幌入りし「夕張再生のめどをつけたのは鈴木候補。安倍政権は経済再生が最優先」と仕上げをした。

 鈴木氏は公約で、北電泊原発再稼働、高レベル放射性廃棄物処分場などの賛否を語らず「道民目線で考える」と抽象論に終始した。自民党は道議会でも過半数を制し、安倍首相を「北海道みたいなところで勝ったのは大きい」と喜ばせた。リベラルで知られた先の地元紙の函館支社は、知事選出馬がささやかれていた昨年10月、鈴木市長を招いて、講演会を開いてもいる。リベラルの牙城は、右派の王国になるかもしれない。

徃住嘉文(北海道支部)

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年4月25日号
posted by JCJ at 14:46 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする