3月22日、この日はラジオ放送が始まったNHKの放送記念日にあたる。その94回目の日、渋谷のNHK放送センター西口前では、NHKで働く人たちに向けた呼びかけ行動があった。呼びかけたのは安倍晋三政権のもとでのNHK政治報道の姿勢を批判する市民が立ち上げた「NHKとメディアの『今』を考える会」で、放送を語る会やJCJのメンバーも加わっている。
働く人へトークも
この日、市民団体が提出した上田良一会長あての申し入れでは、NHKに対して政府から独立した公共放送の原則に立つ政治報道を求めるとしたうえで、▼安倍首相の発言や行動に対する批判的報道がほとんどない▼政権にとって不都合と思われる事実を伝えていない▼政府が発表する呼称に従う傾向がある▼森友・加計学園問題で報道を抑制する姿勢が批判されたと指摘している。
出勤する職員やスタッフに向けたトークではまず、JCJの丸山重威さんが「90年余りたってNHKの放送が今どうなっているのか、皆さんに考えて欲しい。そして議論して欲しい」と訴えた。戦争させない・9条壊すな!総がかり行動共同代表の高田健さんは「今政治報道の在り方が問われている。アベノミクス、外交どれもうまくいっていないのに、安倍首相は頑張っているという報道ばかり、NHKは安倍首相の顔色をうがかうような報道はやめるべきだ」と厳しい口調で述べた。
古巣の現状に見かねてマイクを握るNHKの元職員の人たちもいた。元ディレクターで、女たちの戦争と平和資料館名誉館長の池田恵理子さんは、現役時代に慰安婦問題の番組制作に取り組んできたものの、1997年以降は一切提案が通らくなった体験を振り返り「ファシズム政権は教育とメディアをコントロールする。現場ではやる気のある若い人たちが多いのに、こうした番組が作れないという現状がある」と、後輩たちを気遣った。
NHKへの抗議行動は、この日、大阪や名古屋、岐阜の各放送局の前などでも行われた。放送センター西口前では、参加者約80人が集まり、プラカードを掲げたり、チラシ配りをしたりした。朝の10時前後は職員、スタッフが続々と出勤してくる時間だ。ほとんどの人たちは、マイクの声にもチラシを配る声にも無表情で通り過ぎていく。チラシを受け取ったのは、34人目の女性、次が62人目の女性、さらに50人数えた中では受け取る人がいなかった。この反応をどう受け止めるべきか・・・。メディアという比較的社会への関心度が高いとされる職場で働く人たちだが、自分の職場への批判は受け入れづらいという面があるのか、これもまた一つの現実だ。
無関心ではダメだ
4月1日の元号決定をめぐる報道、マスメディアはお祭り騒ぎ、NHKは夜の「ニュースウォッチ9」で安倍首相がスタジオに生出演した。そこにはジャーナリズムの権力との距離の保ち方などみじんにもなく、あたかも政権の広報≠フようだった。
さらにNHKの役員人事では、今月、籾井勝人前会長時代に政権との距離の近さを指摘された専務理事が、いったん退いたのち再び復帰することが決まった。呼びかけ行動を終えた後にも幹部人事などで、NHKのベクトルは負の方向≠ヨと傾いているのではないか。だからこそ今回の呼びかけは、市民の批判の声として大切だ。チラシを受け取ったNHK職員と、市民が連帯をしていけば、ボディブローのように今のNHK、さらにメディアと政治の関係にも効いてくるはずだ。市民もメディアも無関心ではいられない。
編集部
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年4月25日号