2019年05月01日

【内政】 維新・足立議員 NHKディレクター攻撃 質問に名を借り「公開リンチ」に踏み込む=諸川麻衣

 3月19日の衆議院総務委員会でのNHK予算案審議において、公共放送とジャーナリストに対する重大な攻撃が行われた。日本維新の会の足立康史議員が、NHKのある番組制作者が弁護士の集まり(東京法律事務所九条の会)で行った講演について、個人名を挙げて問題視したのである。

 議員は、「九条の会は政治的行動をする政治団体なのに、政治団体として届け出がなく、違法の疑いが高い」「共産党が東京法律事務所の弁護士を候補に擁立した事実がある」とし、「違法な政治団体が名前を偽ってNHKのディレクターにNHKスペシャルと同じ名前の講演会を主催した。その団体は、破防法の調査対象団体である共産党と一体。こういうところにディレクターが行って、講演している。私は不適切だと思う。少なくとも、NHKの番組の公正公平さについて、視聴者に疑念を抱かせる活動であった。もうNHK終わりますよ、こんなことやってたら」と追及した。

 放送関係者が、自分の手がけた番組について、さまざまな分野の組織や団体に呼ばれて話をすることはごく普通のことであり、相手が暴力団やアレフなどでない限り、「左だから、右だからダメ」ということはない。BBCは、ニュースや番組の制作者だけでなく技術職員なども市民と対話して、協会の業務や存在意義に理解を得ることを重視している。NHK側もこの日、「就業規則で定められた手続きに則り、上司の許可を得て行われたものであり、NHKの番組に対する理解促進につながるという観点から許可した」と当然の答弁をした。

 九条の会が違法な政治団体だと決めつけ、あたかも東京法律事務所が共産党候補を擁立したかのように描き、さらに破防法を持ち出して共産党を危険な団体だと印象づける…このような三重の「言葉の詐術」に基づいて番組制作者の勤務外活動を問題視するのは、質問に名を借りた一種の公開リンチ≠ナはないないだろうか。実際、足立議員は、江田康幸委員長から再三「誤解を招くような表現は控えてください」などと注意されていた。

 議員の狙いは、組織ジャーナリストの市民としての行動を委縮させること、またNHKに今後、職員の同様な勤務外活動への許可を抑制させることにあったのではないか。だとすれば、これは放送の自主・自律と市民の政治的自由に対する大変危険な攻撃だと言わざるを得ない。特に、個人名まで出すのは、名指しされた本人だけでなく、仮に家族があればそちらまで危険にさらしかねず、「一線を超えた」凶暴さを感じる。筆者は思わず、戦前の天皇機関説排撃や滝川事件を想起し、あの暗黒の時代にここまで近づいてしまっていたのかと慄然とした。

諸川麻衣

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年4月25日号
posted by JCJ at 13:19 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする