3月の関西支部の2019年度総会では、大阪府吹田市内の中学校教師・平井美津子さんを招き、自身の授業を掲載した新聞記事を巡る教育現場への行政介入について語ってもらった。
私が1997年に制作・放送したNNNドキュメント「許そうしかし忘れまい〜戦争と教科書」で紹介させていただいた平井さんは、近現代の歴史教育に力を入れておられ、数々の著書もある。今回の出来事は、去年8月に取材を受けた共同通信の配信記事が10月愛媛新聞(写真)で掲載されたことに端を発した。記事は「憲法マイストーリー」という表題で、2年社会科の授業を取り上げている。平井さんは、戦争のあらゆる面を生徒に伝え、特に性暴力かつ女性差別でもある慰安婦問題を熱心に教えているという内容だ。授業そのものも事実に基づいていて、抗議を受けるようなものではない。
ところがこの記事がネット上で拡散され、府教育庁が「記事にある授業が事実なら不適切」と回答。これを受け、吹田市教委が調査に乗り出した。その際、校長の許可を得ず校内で取材を受けたことは問題とされたが、授業の内容は「適切」と判断された。さらに大阪府教育委員会も聴取を行った。当日の記者とのやりとりだけでなく、本来関係のない平井さんの著作についての質問や過去30年もさかのぼるような質問もあったそうだ。これで事態は沈静化すると思われたが、今年1月12日、京都新聞に同様の記事が掲載されたことで再燃した。
2月、府教委から平井さんに再度聴取要請があったが、学校内で同席した校長からの質問に市教委が立ち会うという形で聴取に応じた。これは教育現場への行政の介入が強まっていることをうかがわせる恐ろしい実態だ。歴史にきちんと向き合う教育が脅かされる昨今、再び、戦前の教育が繰り返されないよう注視していく必要があることを痛感させる話だった。
なお平井さんは訓告処分を受けた(履歴に残らず)が、府教委は、授業の内容は「不適切ではなかった」と述べ、府教育庁も「事実誤認はない」としている。
阿部裕一
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年4月25日号