2019年05月05日

【今週の風考計】5.5─見えぬ<ネット・ゼロ・エミッション>の姿

フランス本土の広さを持つ南極最大のロス棚氷が、これまでの3倍近い速度で融解している。昨年夏、世界を襲った異常気象は、北半球の上空1万メートル付近を吹くジェット気流の変化が原因─科学者の国際グループが、相次いでショッキングな見解を発表した。まさに地球温暖化による気候変動、海水と大気の温暖化が原因だと指摘している。

8日から気候変動に関する政府間パネル(IPCC)総会が、「京都議定書」誕生の地・京都で開かれる。2015年に採択されたパリ協定の実現に向け、シンポジウムをはじめ各種の討議が12日まで重ねられる。
特に昨年10月、IPCCが2050年までに「地球の気温上昇を1.5℃までに抑える」<ネット・ゼロ・エミッション>という目標を提起した。これは人間活動による温室効果ガスの排出量を、実質的にゼロにする目標であり、脱化石燃料へと舵を切る大々的な経済・社会の抜本的転換が必要となる。

ところが日本政府は、大規模排出国の一員であるにもかかわらず、石炭火力の廃止について明言せず、石炭火力発電所を国内の各地に新設する計画まで打ち出した。かつ途上国の火力発電建設には、莫大な融資を続けている。こうした措置は世界から厳しく批判されている。
あげくには「低炭素電源」の要になるとして、原発の活用まで声高に唱えている。脱炭素経済へ移行するうえで核となる炭素税と排出量取引についても、取り組みは不十分だ。現行の日本の炭素税率は、世界と比較して非常に低く、排出1トン当たり289円でしかない。フランスは5600円だ。世界レベルの炭素税を導入しなければ、温室効果ガスの抑制にはつながらない。

6月28日から大阪で開かれるG20では、日本政府としての「2050年への長期戦略」を、どのような内容で明らかにするのか、提出が義務付けられているだけに、G20議長国となる日本の真価が問われる。
9月23日にはニューヨークで国連気候変動サミット、11月にはチリで気候変動枠組条約・締約国会議COP25が開催される。もう待ったなしの日程が迫っている。(2019/5/5)
posted by JCJ at 11:28 | 【今週の風考計】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする