2019年05月07日

【メディアウォッチ】 弱体すぎる出版団体 アピールも情報提供も少ない 文化通信・星野編集長が講演=土居秀夫

業界の「定点観測」をテーマとした出版部会例会が、「文化通信」編集長の星野渉氏を招いて、4月6日、JCJ事務所で開催された。

 星野氏は冒頭、取次崩壊とか書店減少とかいわれるが、本は残るという点で自分は楽観している。今は情勢が大きく変化した後の次の段階だ、と前置きして、まずコミックと雑誌の動向を解説した。



拡大する電子版

 昨年、コミック市場は回復し、電子版が拡大した。回復の原因は海賊版サイト「漫画村」の閉鎖、中堅作品のヒット、講談社など大手の定価値上げなどで、値上げしても売り上げは減らなかった。

 出版業界で進むデジタル化については、ファッション誌、経済誌などでは電子版と紙媒体の2本立てとなり、「ニューズピックス」のように紙媒体を創刊したところもある。紙媒体にはブランドの維持やプロモーションの役割を持たせ、デジタルで稼ぐという傾向になっているという。

 そして、中国の都市部では、本を読むことがトレンドとなっている。若い時期にある程度長い文章を読む経験が必要で、書店がないと本好きは育たないと語った。

 この数年激しく変貌した取次業界について、トーハン、日本出版販売(日販)とも取次部門は赤字で、出版社に対する正味(仕入れ値)などの条件交渉、書店事業の収益化、両社の協業化が進んでいる。トーハンは344店、日販は271店もの直営書店を抱えた日本屈指の書店チェーンとなり、両社の中期経営計画ではそれらを統合・法人化していくようだ。書店が注文しないものを送らない「事前発注」を増やすことで、仕入れの量と点数は減るだろう。出版社は、刊行情報の早期提供、正味の低減、書店への事前発注に注力などが必要になると分析した。



書店大きく変貌



 経営が厳しさを増す書店の現状では、雑貨部門を造った米子市の今井書店や居酒屋も併設した有隣堂のミッドタウン日比谷での取り組み、日本進出を図る台湾の誠品書店が「動的」な空間を目指していることを紹介。昨年の新規出店数は84店と過去最低で、全国8000店の書店は、このままでは5000店くらいになるだろうとの見通しを示し、書店は今後、仕入れ機能の強化、キャッシュレスへの対応が求められることを指摘した。

 世界的に従来型の書店はなくなりつつあり、アメリカではアマゾンの影響で大型書店が減った一方、独立系の書店が増えた。ドイツでも書店数は減っているが、新しいタイプの書店が出てきていること、従来型の書店がほぼ消えた中国では、新業態の書店が2017年には1000店も出店したことを取り上げた。

 最後に、トーハンがモデルとするドイツの出版流通事情に関連して、ドイツ図書流通連盟には出版社、取次、書店のほとんどが加盟し、40名もいる事務局は活発なロビー活動を行っていることを紹介した。それに比べて書協9名、取協3名、日書連6名など事務局の人数をあげて、外部へのアピールも情報提供もしない日本の出版業界団体が弱体すぎることを指摘して、講演を締めくくった。

 質疑応答の中で星野氏が、書店を守るためには再販制は必要だ、と強調したのが印象的だった。


土居秀夫

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年4月25日号
posted by JCJ at 11:38 | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする