●米中での関税制裁をめぐる激しい攻防は、チキンレースの様相を呈してきた。米国は昨年7月以降、中国製品2500億ドル(約27兆円)に対する追加関税を、3回にわたって発動している。10日には、昨年9月、2000億ドル(約22兆円)の中国製品に課した10%の追加関税率を、さらに税率25%へ引き上げる「制裁第3弾」を発動した。
●その制裁に加え、トランプ大統領は、立て続けに過酷な中国への関税制裁を拡大し、まだ制裁対象になっていない3000億ドル(約33兆円)規模の製品にも、追加関税を課す準備を始めた。この「制裁第4弾」まで発動されれば、中国からの輸入品には全て追加関税が課されることになる。
●米国の市民に身近なハイテク製品、スマホやノートパソコン、デジカメ、玩具などにも25%の関税が上乗せされる。値上がりは必至、生活を直撃する。これらのハイテク製品は、いずれも世界中から部品を調達し、中国で組み立てている。米国アップルが25%の追加関税を小売価格に転嫁した場合、主力モデルのアイホンは160ドル(約1万7600円)の値上げになると試算している。
●日本や韓国、台湾などアジアに広がるサプライチェーンへの影響も避けられない。ユニクロも中国の工場から米国市場に衣類などを輸出している。主力の衣類が25%関税の対象となれば、大きな影響を受けるのは避けられない。中国での自動車やスマホ需要、ハイテク製品の輸出が縮小すれば、日本の電子部品や工作機械の受注も、「リーマン・ショック級」の打撃をこうむりかねない。
●米中の貿易戦争が激しくなればなるほど、両国が排他的な「ブロック経済圏」を築き、世界経済が混乱する事態に追い込まれる。とりわけトランプ大統領が、国際的な枠組みからの「離脱」、そして「制裁」に走り、この2年ほどの間に<TPP、パリ協定、イランとの核合意、ユネスコ>の全てから離脱した。最悪のWTO離脱までささやかれる始末。自らの覇権のために世界を巻き込むことは許されない。(2019/5/12)