北緯38度線は朝鮮半島を南北に分断する停戦ラインだ。このラインから南北2`bずつ帯状のエリアは非武装地帯(DMZ=248`b)と呼ばれる緩衝地帯になっている。1953年の停戦後に軍事活動は許されなかったが、300万個ともいわれる地雷が埋められている。このため65年もの長きにわたり人が立ち入れることがなかった。皮肉にも今ではツキノワグマなど101種の絶滅危惧種を含む5057種の生き物がすむ豊かな大地に生まれ変わっている。
戦争によって生み出されたこの豊かな生態系を守り、後世に手渡そうというプロジェクトがあることはあまり知られていない。そのプロジェクトは「Dreaming of Earth Project(大地の夢プロジェクト) 」で、2014年からスタートしている。立ち上げたのは53年にソウルで生まれた崔在銀さんだ。76年に来日し、東京で華道を学び、草月流と出会う。3代目の家元であり、映画監督の勅使河原宏のアシスタントを務め映画制作など日本で活動した。崔さんは多くの野生動物が生息するDMZの自然と人間との共存をめざし、世界の美術家や建築家などにアイデアを求めてきた。
それを可視化した展示会「自然の王国」が東京・品川区の原美術館で開かれている。
同美術館担当者は目玉作品をこう説明する。
「空中庭園の設置を日本の建築家・坂茂さんが提案しています。DMZに東西南北合わせ全長20`bに及ぶ巨大な計画です。竹のパサージュ(小道)≠設け人の自然への介入を防ぎ、地雷から人を守ります。2分の1サイズの模型を提示しています。韓国のチョウミンスクさんは発見されたトンネルを活用し、植物の種子や本、フィルムを保存する貯蔵庫のアイデアを公開しています」
崔さん自身はDMZで使われていた鉄条網を溶かした鉄板を出展した。憎しみは雪のように溶けるという意味を込めている。7月28日まで。
橋詰雅博
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年6月25日号