2019年10月13日

【JCJ賞講評】 受賞逸した9作品を紹介 重大問題に切り込む=伊藤洋子選考委員

本欄では最終選考に残った14件中受賞した5作品を除く9作品を紹介する。

「奴隷労働―ベトナム人技能実習生の実態」花伝社 巣内尚子

 ベトナム政府の労働力輸出政策と日本政府の労働力輸入政策が生じた「技能実習制度」により、多額の借金と長時間・低賃金に縛られる奴隷労働を生みだした。その実態を140人余りの人々の声からあぶり出した労作である。

「未和 NHK記者はなぜ過労死したのか」岩波書店 尾崎孝史

 31歳で急死したNHK報道記者の事件は過労死認定されるが、NHKは死後4年間隠蔽する。取材から浮かび上がるのは巨大組織の理不尽さであり、安倍晋三政権による働き方改革の空しい実態である。

「紛争地の看護師」小学館 白川優子

「国境なき医師団」の一員として紛争地へ派遣され、被害者たちが抱える怒りを「私がそれを伝えなければ」と、自らの経験を記録。一時はジャーナリストを志した筆者は、見事なルポでその役割を果たした。

「安保法制下で進む! 先制攻撃できる自衛隊」あけび書房 半田滋

 戦争ができる国固めを推し進めてきた安倍政権の狙いが活写される。中核となる18大綱が導く日本とは「政治主導による軍事国家という未体験ゾーンに突入しつつある」ものと鋭く分かりやすい。

「捜査当局の顧客情報取得」を巡る一連の報道 共同通信社社会部取材班 共同通信社

 個人情報を網羅するポイントカードやクレジットカード情報が警察や検察の「捜査関係事項照会」なる内部手続きで日常的に取得され、捜査にフル活用されているという一連の報道は「監視社会化」への恐るべき警鐘である。

「公文書クライス〜ずさんな公文書管理の追求キャンペーン」毎日新聞社

 公用メールが官僚の恣意的判断で破棄され、メモをとるな、議事録を残すな、首相の面談記録は「不存在」とするなど公文書の扱いに独自の取材を重ねる中で、秘密国家への横行が明らかになっていく。

「行ってみれば戦場〜葬られたミサイル攻撃」名古屋テレビ放送

 湾岸戦争直前、米政権から自衛隊派遣要請を受けた日本政府は、民間貨物船を中東派遣船に。現地は戦場そのもの、実情を綴った船長報告書は無期限極秘文書とされた。この文書の発見をきっかけとして取り組んだ本作は当面する課題を突き付ける。

「法と恨(はん) 朝鮮女子挺身隊の戦後」北日本放送

 戦時中軍需工場だった富山市の不二越は朝鮮からの少女たちが働いていた。過酷な労働を経て、帰国しても誤解と偏見に悩まされ苦しみ続けてきた訴えに“もう一つの徴用工問題”が浮かび上がる。

首相官邸の情報隠しと取材拒否、記者攻撃に対する毅然としたジャーナリズム活動と、それを支えた新聞社 受賞対象:望月衣塑子記者と東京新聞編集局 

 東京新聞の望月記者の取材活動はいまや誰もが認めるところだが、ご本人が取材班の一員である「税を追う」キャンペーンを大賞として顕彰することにより、記者活動の成果を讃えることとした。

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年9月25日号
posted by JCJ at 11:12 | JCJ賞情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする