2019年10月26日

【かんぽ不正報道】 郵政圧力に屈したNHK経営委 続編制作の現場無視の罪は深く思い 石原経営委委員長は辞任を=戸崎賢二 

 NHK経営委員会が会長に「厳重注意」したことが報じられて以来、驚くべき事実が次々に明らかになっている。
 18年4月24日の「クローズアップ現代+」「郵便局が保険の押し売り!?」に対して郵政グループから執拗な抗議があり、NHKは8月10日に予定していた「続編」の放送を「延期」した。その間、NHK幹部が「会長は番組制作に関与しない」と説明したのに対し、郵政側はNHKのガバナンス(統治)の検証を求める文書を経営委員会に送り、経営委員会はこれを受け入れて会長に厳重注意処分を行った。

放送中止事件だ
 われわれはいったい何を目撃しているのだろうか。
 NHKの自律を揺るがす経営委の対応は重大だったが、その一方、筆者の直感は、放送史上数多い「放送中止・打ち切り事件」に新しいケースが一つ加わった、というものだった。再びかんぽ不正問題を「クロ現」が取り上げたのは1年3カ月後の今年7月である。これを「延期」の末の「続編」とは言えない。昨年8月の「延期」は事実上「中止」というべきではないか。
 「続編」放送予定直前、郵政側が取材拒否を通告した。これが「取材が尽せたかどうか判断する要素になった」と理事の一人が説明したとされる(毎日新聞10月4日付)。企業犯罪を追及する報道で、その企業が取材拒否をしたからといって放送を断念するのか、という話である。現場は続編中止に納得していなかったはずだ。

 日放労放送系列(放送現場の組合員で構成される支部)は、今年9月末の交渉で「昨年秋、現場が納得していない点を問い質した」とし、「制作現場を無視した動きが番組に影響を与えていたとすれば憤りを感じる」と述べたと聞く。
 社会で起こっている事実を取材し、現場が番組やニュースに結実させていくことは、報道機関を成立させる基本の営みである。NHKが郵政グループの圧力に屈してこれを毀損した罪は深く重い。

見識欠く経営委
 NHKが郵政に「番組制作に会長は関与しない」と説明したのは、むしろ実態を正確に反映していた。誤りとまでは言えない。補足説明すれば済むようなことだった。
 これをとらえて郵政側が経営委に要求した「ガバナンスの検証」は、番組に対する会長以下の「統治」を強めるよう事実上要求したものと言ってよい。
 これが番組への別の手段による抗議だったことは明白で、かんぽ不正を告発するような「困った番組が出ないように監督せよ」というのが真意だろう。

 しかし、経営委はこれを受け入れ、郵政側への説明が不十分だとして会長に注意し、郵政側に謝罪させた。番組制作の自主自律というNHKの最高の倫理にたいして大きく見識を欠く行為というべきである。あきれるほかない。「厳重注意」の時期は最初の放送から半年経っている。それまで取材を継続してきたなら、その頃でも「続編」は簡単に放送できたはずである。被害の拡大も防げたかもしれない。しかし、会長が経営委から注意されたような状況では「かんぽ不正」の放送などできなかったと思われる。

署名運動始まる
 放送法は第3条で、「番組は何人からも干渉、規律されることがない」と定め、経営委員会に3条に抵触する行為を禁じている(第32条)、事実の流れからみて、経営委員会の行為は番組制作過程への実質的干渉というべきで、法に違反する疑いがきわめて強い。
 われわれは安倍総理が任命した経営委員会がいかなるものか、改めて認識することになった。この経営委が間もなく次期会長を選ぼうとしている。いま関西の視聴者団体の呼びかけで、石原進経営委員長の辞任を求める署名運動が始まっている。何としてもこの運動を成功させなければならない。

戸崎賢二(元NHKディレクター)

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年10月25日号
posted by JCJ at 14:03 | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする