2019年10月30日

「反ヘイト」対「ヘイト」裁判 差別報じた記事を名誉棄損で 神奈川新聞・石橋記者 報道委縮が狙い

 ヘイトスピーチを批判する記事を書いてきた神奈川新聞の石橋学記者(48)が差別主義者に訴えられた民事訴訟が9月24日、横浜地裁川崎支部で始まった。虚偽の発言を「デマ」と断じ、差別的言動を「ヘイトスピーチ」と非難した記事によって名誉を傷つけられたとして損害賠償を求めるもので、石橋記者と弁護団は「差別を自由に続けたい『ヘイト』対『反ヘイト』の主戦場」と位置づける。石橋記者は「裁判が報道を萎縮させる目的であるのは明らか。メディアこそが先頭に立って反差別の記事を書くべきで、彼らの言動がヘイトスピーチであると判決の中で認定させたい」と話している。

正当な論評だ

裁判を起こしたのは今年4月の川崎市議選に立候補した佐久間吾一氏(53)。自身が主催した講演会を「差別言動繰り返し」との見出しを掲げて批判した2月15日付けの神奈川新聞の記事を問題にした。

 署名入りの記事で石橋記者は、講演会のあいさつに立った佐久間氏が川崎市川崎区池上町の在日コリアン集住地区について「いわゆるコリア系の方が日本鋼管の土地を占領している」「共産革命の拠点が築かれ、いまも闘いが続いている」などと発言したことを取り上げ、在日コリアンに対する「悪意に満ちたデマによる敵視と誹謗中傷」と断じた。

 佐久間氏は「在特会」から生まれた極右政治団体「日本第一党」の瀬戸弘幸最高顧問と行動を共にし、選挙でも瀬戸氏をはじめとするレイシストの応援を受けた人物。記事は、佐久間氏や日本第一党が川崎市内で続けるヘイト活動の実態を踏まえたものだが、佐久間氏は「根拠なくかき立て統一地方選候補予定者である原告の名誉を著しく傷つけた」と主張する。対する石橋記者側は第1回口頭弁論で、佐久間氏の発言は差別をあおるためのデマで「記事には公益目的があり、新聞記者として正当な論評をした」と述べ、名誉毀損には当たらないと反論した。

 弁護団は石橋記者の無罪を証明するだけでなく、佐久間氏や瀬戸氏ら日本第一党の活動がヘイトスピーチであり、人権侵害であることを判決の中で認定させることを目指す。裁判には約50席の傍聴席からあふれる市民が詰めかけ、メディアを支える市民運動の姿勢を示した。

沖タイ1面で

取材には朝日、毎日、共同通信社、沖縄タイムス、琉球新報、RKB毎日放送などが駆け付けた。特筆すべきは沖縄タイムスで、本記を1面に掲載し、解説記事と池上町のルポを社会面で展開。筆者の阿部岳編集委員は石橋記者の「メディアこそが差別をなくす闘いの先頭に立つべきだと考えて書いてきた」との発言を引用。「だからこそ石橋記者個人も狙われた。もし石橋記者が敗訴すれば、差別的言動は差別というレッテルから逃れ、自由になり、再び爆発的に拡大するだろう」と警鐘を鳴らした。基地反対運動を標的にした沖縄ヘイトに対する問題意識に基づく報道で、裁判の行方の重要性を浮き彫りにした。

 次回の口頭弁論は12月10日。石橋記者は「ヘイトが横行する現状はメディアが役割を果たしてこなかった結果だという思いがある。無罪判決を勝ち取り、差別を批判する報道の正しさを証明したい」と話している。

編集部

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年10月25日号
posted by JCJ at 12:52 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする