2019年11月17日

【今週の風考計】11.17─160年前の「日米通商条約」の轍を踏む!

◆低山ハイクを楽しむ仲間と、伊豆半島・下田にある寝姿山を歩いた。黒船見張所跡や復元された大砲を確かめ、ついた山頂から大島や利島を望む。眼下の下田港に黒船サスケハナ号が入ってくる。
◆165年前の光景が立ちのぼる。米国のペリー提督が7隻からなる艦隊を率い、煙突から煙を吐き、礼砲を響かせ、海岸へと迫ってくる。人々が恐れ慄いたのも無理はない。ついに幕府は鎖国をやめ、「日米和親条約」を結び、この下田港への出入りを認めた。
◆4年後には、ハリスが米国総領事として下田に赴任。「日米通商条約」が結ばれた。とりわけ関税自主権を放棄したため、低い関税率に固定され、かつ米国には特権的優遇措置を約束、安い外国商品が日本に流入し、貿易不均衡が生じる事態となった。

◆はからずも、読み終えたばかりの木内昇『万波を翔る』(日本経済新聞出版社)には、黒船来航から明治維新へのドラマが生き生きと描かれている。外からは老獪な欧米列強の貿易交渉に攻められ、内からは尊王攘夷に煽られ、業を煮やした幕府は、関税や取引通貨の交換レートの折衝などにあたる外国局を新設した。
 この仕事に就いたのが田辺太一という男、今でいう外務省ノンキャリア官僚、彼の奮闘が目覚ましい。オビに「この国の岐路を、異国にゆだねてはならぬ」とある。改めて今だからこそ、同感!

◆帰りの伊豆急線が伊豆高原駅を通過した際、これまた不意に、佐藤雅美『大君の通貨』を思い出した。本書は作家としてのデビュー作で、かつ新田次郎賞を受賞した。その後は『恵比寿屋喜兵衛手控え』で直木賞受賞。江戸時代の町奉行や公事宿を描き、物書同心居眠り紋蔵シリーズが評判だった。
◆佐藤さんは伊豆高原に住んでいた。そして今年の7月末に78歳で亡くなられた。打ち合わせなどで会った佐藤さんの話ぶりや表情などが思い出される。

◆さて『大君の通貨』には、ペリーの来航以来、欧米との貨幣交換レートを巡る交渉に明け暮れた水野筑後守忠徳たちの姿が描かれている。
 幕末の日本では金よりも銀の値打ちが5倍も高い。しかし海外では逆で、金が高く銀の16倍も高い。そこに目をつけた米国のハリス総領事は、銀貨で日本の小判(金)を買いつけ、上海に持っていっては小判(金)を売り、儲けを増やす。また日本に来ては小判(金)を買う。こうした繰り返しにより莫大な利益を貪ったのだ。
◆その結果、日本から大量の小判(金)が流出し、物価の高騰・インフレにつながり、武士階級が困窮、幕府崩壊へと行きついた。まさに自滅である。

◆今の日本はどうか。日米貿易交渉ひとつとっても、安倍首相は「ウィンウィンの関係」だと自画自賛した。だが米国から輸入する牛肉・豚肉・農産物などの関税は引き下げ、かつ余剰トウモロコシまで買う約束をしたのに、米国へ輸出する自動車への関税については、「撤廃に向け、さらなる交渉を続ける」との口約束だけ。
 まさにトランプひとり「ウィン」じゃなかったのか。この「日米貿易協定」を、19日にも衆院で強行採決するに至っては、160年前の「日米通商条約」と同じ轍を踏んでいるのではないか。(2019/11/17)
posted by JCJ at 10:00 | 【今週の風考計】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする