2019年12月03日

逮捕で安易に犯人視 報道が冤罪つくる恐れ 袴田事件もとに小石さん講義=須貝道雄

 「報道が冤罪をつくってしまう恐れがある」。11月24日に東京で開いたジャーナリスト講座で、講師のフリーライター・小石勝朗さん(元朝日新聞記者)は静岡県で起きた「袴田事件」を取り上げ、警察取材の難しさを話した。 

 着衣次々変わる
 講座では、53年前の事件発生時の新聞紙面を見せながら、報道のあり方を問いかけた。警察情報に依拠し、「疑わしい人物」を安易に犯人視する記事、見出しの問題だ。
 例えば毎日新聞1966年7月4日の夕刊。見出しに「清水の殺人放火、従業員『H』浮かぶ、血ぞめのシャツを発見」とある。直後の7月5日朝刊記事では「血ぞめのシャツ」は消え、「血ぞめのパジャマ」に変わる。「従業員『袴田』に逮捕状」の記事では見出しに「寝間着の血がキメ手」とあった。小石さんは「これらパジャマや寝間着は、裁判での袴田さん有罪に何もつながっていない」と語った。
 起訴段階で検察側は、袴田さんはパジャマ姿で犯行に及んだとした。しかし裁判の途中で着衣を変更してしまう。事件から1年2カ月後、会社の味噌樽から多数の血痕がついた衣類5点が「発見」される。この5点の衣類が犯行時の着衣で、血痕は血液型から、被害者の返り血と袴田さんの血だと検察側は主張した。

「不敵な」と表現
 5点の衣類は袴田さん死刑判決の根拠となった。しかし第2次再審請求で静岡地裁が実施したDNA鑑定により事態は動く。弁護側鑑定人から、衣類の血痕は被害者の返り血や袴田さんの血ではないとの結果が出て、再審開始決定につながった。
 いったん警察に逮捕されると、その人を犯人視する報道は雪崩のように広がる。袴田事件はその典型だった。
 「袴田を連行、本格取り調べ」では、写真にそえて「不敵なうす笑い」の見出しが。「袴田ついに自供」の記事では「葬儀の日も高笑い、ジキルとハイド≠フ袴田」の見出しだ。
 小石さんが「何でもありですね」と嘆いたのは静岡支局長のコラムの文章だった。「彼の特色といえば、情操が欠け、一片の良心も持ち合わせていないが、知能だけは正常に発達していることである」

予断与えないか
 一連の報道が裁判に強く影響したと小石さんは指摘した。一審の静岡地裁で死刑判決を起案した元裁判官の熊本典道さんはインタビューで、自分は袴田さんが無罪と思ったが、他の二人の裁判官は有罪の判断で死刑判決となったことを明かしている。その中で、新聞報道を読めば「真面目な人だったら引っかかりますよ」(小石勝朗著『袴田事件これでも死刑なのか』から)と語り、有罪判断に報道が関係したことを示唆している。
 「今は裁判員裁判の時代。報道が予断を与えていないか、気配りする必要がある」と小石さんは強調した。    

 須貝道雄

▼袴田事件 1966年に清水市(現在は静岡市清水区)で起きた味噌会社の専務一家4人殺害・放火事件。住み込み従業員で元プロボクサーの袴田巖さん(当時30歳)が逮捕された。1日平均12時間に及ぶ取り調べの末、袴田さんは逮捕から20日目に「自白」。裁判で無実を訴えたが1980年、最高裁で死刑が確定した。再審請求で静岡地裁は2014年、再審開始を決定し、袴田さんは47年7カ月ぶりに釈放された。しかし18年に東京高裁が地裁決定を取り消し、再審請求を棄却。現在は最高裁の判断待ちになっている。

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2019年11月25日号
posted by JCJ at 19:35 | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする