名古屋市に本社を構える東海テレビ制作のドキュメンタリー映画「さよならテレビ」を都内の劇場で見た。実は初日の1月2日12時30分の回で見るため劇場に行ったところ、立ち見のチケットまでも売れてしまい入れなかった。
そばにいた正月休みを利用して秋田から来たという男性は「え―入れないの。うーん悔しい。仕方ない、時間を潰して17時30分の回で見るか」とぼやいていた。
この12時30分の回は土方宏史監督の舞台挨拶があるからそのせいもあって完売と思ったが、舞台挨拶がない午前中の回も完売だった。
全国で公開中のこの映画は、東海テレビ開局60周年記念番組がベース。番組は2018年9月に放送エリアの愛知、岐阜、三重の3県で放送された。放送後に放送業界やメディア研究者の間でスゴイ内容という噂が広まり、番組を収録したDVDの上映会が密かに開かれたという。
こんなに注目された理由は身内の報道部をありのままに撮影したからだ。監督の狙いは「テレビの今」を伝える。
もっとたくさんの人に見てもらいたいと阿武野勝彦プロデュサーと土方監督は、新たな録画を32分加え映画版をつくった。ちなみに阿武野プロデュサーは取材対象に「タブーはない」が信条だ。
当然ながら取材されるデスクや部員らは苛立った。そこで「マイクは机に置かない」「打ち合わせの撮影は許可を取る」「放送前に試写を行う」―この3つを監督と報道部が取り決めて本格撮影が始まった。もちろんこのやり取りも写っている。
報道部を漫然と撮ってもつまらない。メリハリをつけるためフォーカスされたのが男3人。看板の夕方ニュース番組のメインキャスター兼アナウンサー、1年契約の中堅記者、番組制作会社から派遣された若い記者だ。
アナは視聴率を上げることができずキャスターを下ろされ、テレビメディアでの娯楽ネタ偏重に疑問を持つ中堅記者は悶々と仕事を続け、若い記者は取材でヘマをやり1年でクビに。退職の日に上司から卒業≠ニ言われて花束を受け取った記者は「この経験を生かし、つぎ頑張りたい」と挨拶した。
とりわけここまで写していいのかと思ったのが失業した若い元記者が「金がなくヤバイ。貸してくれませんか」と土方監督に頼むシーンだ(この場面、追加した録画部分ではないか)。
監督は2つ折りの財布から取り出した万札数枚を彼に渡した。引き上げる彼のうしろ姿は安堵の気持ちが現れているようにみえた。
視聴率の上下に振り回される部内、ないがしろにされる権力の監視、正社員とそうでない者の待遇格差――自社の恥部≠堂々と見せた面白いドキュメンタリー映画だ。
「さよならテレビ」を2020年度JCJ賞候補作品として推したい。
橋詰雅博
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年2月25日号