神奈川支部は2月1日、横浜市中区の横浜市開港記念会館で例会を開いた。日本で初めてヘイト行為を刑事罰によって規制する「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」(7月施行)の意義について、神奈川新聞川崎支局長の石橋学さん(写真)が解説した。
また石橋さんは自身が訴えられた裁判にも言及し、多くの支援者に支えられていると語った。
石橋さんの講演要旨は以下の通り。
命の危険感じる
昨年12月、川崎市議会は差別根絶条例を全会一致で可決した。自民党から共産党まで全会派が賛成した意味は大きい。その背景には立法事実や差別デモ、ヘイト行為の実態がある。ヘイトデモは聞くに堪えない罵詈雑言を浴びせ、その対象者は生命の危険を感じるほどだ。今回の条例成立は、行政や議会がその現実を共通認識として持てたことによる。
川崎市の桜本地区には朝鮮半島出身者が多く住んでいる。ヘイトデモは2013年5月から始まり、11回目からは桜本地区を目標にデモが行われた。地区の住民は川崎市にデモの出発点として市が管理する公園使用の不許可を要請した。市の答えは「根拠法がないからできない」「何がヘイトスピーチにあたるか判断が難しい」というものだった。
運動団体の「ヘイトスピーチを許さない川崎市民ネットワーク」は条例制定を市議会に求めた。市議会には日本会議に所属する右派系の有力議員もいる。条例推進派は、議場の日の丸掲揚を推進した有力議員にも働きかけた。「自民党議員に呼びかけても無駄だろう」などと言っている場合ではなかったからだ。その議員は条例が可決された後、推進派の人に「5年間かかってしまってごめん」と言って固く握手した。
足りない点ある
条例成立の契機は16年成立のヘイトスピーチ解消法。しかし同法は理念法で、ヘイトを罰則で規制するものではない。罰則付きの法律ができないのは「表現の自由」に抵触するという議論があるからだ。
在日コリアンの人権も表現の自由も共に守るため、川崎市の条例はいろいろな工夫をしている。
条例ではヘイト行為に対し勧告、命令、警察・検察への告発という3アウト方式≠とっている。市の警告に従わない確信的な行為に処罰を限定するためだ。これなら普通の人の言論が萎縮することはないと考えられる。
市の裁量で科せる行政罰の選択肢もあったが、刑事罰を選び司法の判断を加えることで、公平性・透明性を担保している。
条例では街頭デモを想定し、拡声器やプラカードなどの手段も示し差別的言動を禁止している。
さらに具体的にヘイト行為の類型を示し、在日コリアンに対する「出ていけ」とか「殺せ」とか「ゴキブリ」とか言った言葉を禁止した。
足りないのは誹謗中傷して憎悪を煽る行為を類型にあげて禁止しなかった点で、今後の課題だ。ヘイト側は「朝鮮人は罪を犯しても処罰されない」などのデマを拡散し偏見を煽っている。関東大震災時のデマは、朝鮮人・中国人に対する偏見を増幅し、その後の戦争につながった。
現在、やまゆり学園事件が起きた相模原市でも罰則付きの人権条例を検討中だ。
編集部
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年2月25日号