
新型肺炎コロナウイルス報道を巡り、内閣官房国際感染症対策調整室や厚生労働省、自民党が目を光らせ、番組を名指しして「反論」するという形で事実上の圧力を加え、問題となっている。
テレ朝標的
内閣官房の調整室が問題にしたのは、「羽鳥慎一モーニングショー」が5日に放送したコメンテーターの発言。安倍首相が、新型インフルエンザ等対策特措法の改正(以下改正特措法)にこだわる理由について、政治アナリストの伊藤敦夫氏が「『後手後手』批判を払しょくするために総理主導で進んでいるというアピールをしたい」からと見るコメントを寄せた。
同調整室は6日「法律改正をする理由はそうではありません。あらゆる事態に備えて、打てる手は全て打つという考えで法律改正をしようとしています」と公式ツイッターで反論した。
羽鳥の「モーニングショー」は狙い撃ちされる形で、政府機関の「反論」の対象になっている。
なぜ「名指し」
同番組は4日、供給が滞っているマスクについて「まずは医療機関に配らないとだめ。医療を守らないと治療ができない」と強調した。すると厚生労働省は5日、公式ツイッターで「医療用マスクの優先供給は行った」と反論したが、事実ではなかった。厚労省はフェイク反論≠フ訂正に追い込まれ、醜態を演じた。
これについて、レギュラーコメンテーターの玉川徹氏が「僕が疑問なのは、なぜうちの番組を名指しでこの時期にツイッターを出したかなんですよ」「なんで、ちゃんと事実確認もしないで、厚労省が名指しでやったのか。僕は回答が欲しい」とコメントした。
「Nスタ」も
反論に名を借りた番組への圧力はTBSの基幹ニュース「Nスタ」(4日)にも向けられた。
「Nスタ」に出演した岡田春恵白鴎大学教授が「私たちは基礎的な免疫力がないから、新型コロナウイルスは普通のインフルエンザより罹り易い」とコメントした。
これについて、厚労省のツイッターは5日「新しいウイルスのため、普通のインフルエンザより罹り易いということはない。そういうエビデンスはない」と反論した。
これに関連して「毎日」が7日、「官邸幹部が『事実と異なる報道には反論するよう指示した』と明かした」と伝えた。
問題となるのは、13日に成立した改正特措法との関連だ。
聞き流すな
安倍首相は16日の参院予算委員会で、改正特措法による「必要な指示」が民放テレビ局にできるかについて「報道事業者は、本特措法による指示の対象にはならない」と「民放除外」を答弁した。
しかし、11日の衆院法務委員会で宮下一郎内閣府副大臣は「法律の枠組みとしては『いま、この情報を流してもらわないと困る』と指示を出す。放送内容を変更、差し替えてもらうことはあり得る」と答弁。首相はこの答弁の是非については言及していない。
内閣調整室などの反論は「放送したコメントは事実と異なる」などに留めているが、宮下答弁にある「放送内容の変更、差し替え」を念頭に置いた「テストラン」であることは間違いない。
「反論」を偽装した圧力を軽視してはならない。毅然と対応せず、聞き流していては、メディアの規制、介入に異常な執念を燃やす安倍首相に危険な武器を与えるだけだ。
その先には、あの「大本営本部発表」の世界が待っている。
河野慎二
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年3月25日号