NHK経営委員会は、2018年10月23日上田良一会長(当時)に「厳重注意」した。当初、「ガバナンス体制の徹底を求めた」と説明したが、実は、経営委員の個別番組への干渉を禁じる放送法32条に反する議論の末に下した処分だったことが明らかになった。
放送法32条に違反
3月2日、毎日新聞のスクープでこの事実が明らかになると、国会でも、野党が放送法違反と追及、森下経営委員長の辞任を求める声が上がった。
NHK問題に取り組む各地の市民団体からも、「事実上の番組内容への介入」「NHKの自主自律の破壊者」など批判が集中、日放労(NHK労組)委員長も「放送法違反の疑いがある」と見解を表明した。
批判の高まりを受けて、NHK経営委員会は3月24日一連の「対応の経緯」を公表、非公開会議の内容説明に追い込まれた。「公表すべきだったと反省」と謝罪はしたものの、「状況によっては番組について意見を述べ合うこともありえる」と今も居直っている。
「厳重注意」後も改変
公表資料では「(上田)前会長に対する注意が、番組の取材や制作に影響したとは考えられません」と弁明しているが、経過を見ればこれは事実に反する。
18年10月の会長への「厳重注意」後、10月30日放送予定の「かんぽ不正」問題にも触れる続編を編集中のディレクターに、番組統括が「一切理のないお願いだが、郵便局を出すことで放送後に厄介な問題が起きる」と郵便局の話題に触れぬよう指示されたという。事実、放送された番組「あなたの資産をどう守る?超低金利時代の処方箋」では、郵便局の話題には一切触れなかった。
見識欠く森下氏
「厳重注意」を下した会議を主導した森下氏は、「今回の番組の取材は稚拙、取材行為がない。インターネットを使う情報は偏っており、作り方の問題だ。郵政側の抗議への対応も視聴者目線に立っていない」「郵政の不満の本質は取材内容だ」などと発言したとされる。
この発言は、第一に経営委員でありながら制作現場への理解に欠けている。制作の労苦への共感が感じられず、オープンジャーナリズムという新しい取材方法への理解もない。第二に、外圧から現場を守る防波堤を期待される経営委員の立場を忘れ、抗議してきた郵政の考えに寄り添うもので、「放送の自主自律」を全く理解していない。第三に、郵政の抗議がガバナンスを口実にした番組への抗議であることを知りながら、会長への「厳重注意」を主導、経営委員の個別番組への干渉を禁じた放送法32条違反である。
放送の自律に無理解
会議で上田会長が「(経緯が)公になればNHKは存亡の危機に立たされる」と強く抵抗したことを、森下氏は「特に重大だとは思っていなかった」と国会で答弁している。これも「放送の自主自律」への無理解の極みだ。会議に先立つ9月25日、森下氏は鈴木郵政副社長と面談したが、この時点で、「経営員会は番組に関与できない」と断るべきだった。
3月16日から24市民団体が呼びかけて森下氏の経営委員辞任を求める署名運動が開始された。この取り組みを新型コロナパンデミックスの陰に埋もれさせてはならない。 小滝一志
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年4月25日号