2020年06月11日

真実つかむ取材を 報道の自由 ネットセミナー=須貝道雄

            瀬川牧子さん.jpg
 国連が定めた世界報道自由デー(5月3日)にちなむネット上のセミナーが9日、会議システムzoomを使って開催された。法政大学の坂本旬教授を中心とした実行委員会の主催で、JCJも協力。大学のゼミ生を含めて約130人がパソコンやスマホで視聴した。
 セミナーでは「国境なき記者団」の日本特派員、瀬川牧子さんが「緊急事態宣言と強化される情報統制」のテーマで話をした。強調したのは、日本と海外とでは「全くメディア文化が違う」ことだった。
ルール破りOK
 例えば日本のメディアは、延期になった東京五輪を「復興五輪」と称してプラスイメージで報じ、マイナス面をほとんど取り上げていない。
 これに対し、瀬川さんが取材に協力したノルウェーやスウェーデンの記者は異なった。彼らは「五輪を揶揄(やゆ)するため、福島の問題をもっと取り上げる」という狙いで来日している。「英国の記者たちもバーっと福島へ行く。五輪をやじりたいためだ」。ロンドン五輪(2012年)の際には、ホームレスの記事を書いて「五輪をやっている時ではない」と批判する英国メディアもあった。
 2012年1月に、仏メディア「フランス24」のジャーナリストが福島原発から20`圏内の立ち入り禁止区域に潜入し、警察に逮捕されたことがあった。国境なき記者団はパリの日本大使館に抗議したという。その理由は「潜入させるほど、記者に(報道の)自由を与えなかったのは日本政府の責任」だからだ。
 「国境なき記者団にとって、真実をつかむためにルールを破るのは全くOKなんです。ジャーナリストはトラブルメーカーでなければならない。やばい、えぐい話を取材し、報じてほしい」と呼びかけた。
 次に登場したのは毎日新聞社会部の大場弘行記者で「報道の自由と公文書・情報公開」の題で講演した。毎日新聞は18年1月から「公文書クライシス」のキャンペーン報道を続けている。
 話題にしたのは、東京・霞が関の官庁街で「闇から闇に消える文書」の存在だった。例えば「総理のご意向」の字句で有名になった文科省から出た文書。これは一般に「レク資料」と呼ばれ、官僚たちの証言によれば、まぎれもない公文書でありながら、口頭説明の一部として扱われ、表向きは存在しないことになっている。
数億通のメール
 「ベタ打ちメール」も公文書として扱われていない。ベタ打ちとは、添付ファイルに書くのではなく、メールの画面にベタベタ字を打ち込むことから付いた名だ。ベタ打ちメールは一つの省庁で年間数千万から数億通に上るという。加計学園問題でも重要なメールがあった。
 もう一つ、大きな問題は公文書を束ねたファイル名をわざと抽象化し、中身をわからなくする手法があることだ。検索が難しくなり、情報公開請求がやりにくくなる。
 防衛省はイラク復興支援に関する文書のファイル名を「運用一般」と表記し、南スーダン派遣の文書を「注研究」、セクハラに関する報告を「服務指導」としていた。その結果、異動で担当者が変わると、何の文書がファイルされているかわからず、自衛隊のイラク日報を捜しきれず、後から見つかるということも起きたと話した。
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須貝道雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年5月25日号

posted by JCJ at 13:53 | オンライン講演 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする