2020年06月12日

山陽新聞不当配転 加計隠し報道を批判 3人の労組が勝利 報復人事はね返す=藤井正人

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  山陽新聞社では、私たちの組合と社との間で、ことし2月まで5年余に及ぶ長い争議が続いた。「私たちの」と記したのは、社が半世紀以上前に山陽新聞労組を分裂させてつくった第二組合があるからだ。いまや、私たちが3人なのに対して、第二組合は300人もの圧倒的多数になっている。
 印刷一筋の人を
 争議で争った事件は複数あるが、そのうちの一つが社による正副委員長の出向拒否事件だ。印刷工場直営化を求める山陽労組の運動方針を理由に、社は、2018年春稼働の新印刷工場に、高校卒業以来40年印刷一筋で働いてきた正副委員長2人を出向させず、異職種配転した。
 一方、新印刷工場の別会社化を容認する第二組合の印刷部員は、希望者全員を新工場に出向させた。山陽労組は、この差別人事を不当労働行為として、同年4月、岡山県労働委員会に救済を申し立てた。
 新聞労連や地域の仲間の支援を受け、多彩な戦術を駆使して闘った。その中でも、大きな転機となったのは、19年2月に元文部科学省事務次官の前川喜平氏を招いて開いた市民集会だった。「これでいいの? 山陽新聞」と銘打った集会は、定員300人の会場に400人もの市民が詰めかけた。
 不当配転人事をめぐる労使争議なのに、なぜ前川氏を招いた集会が企画されたのか、不思議に思われるかもしれない。それは、山陽新聞が加計問題をめぐって、加計隠しとも言える報道をしていたこと、山陽労組がそれを厳しく批判していたことによる。
 社説で書かない
 加計学園は、岡山市に本部を置く。そして、加計学園の運営に、山陽新聞会長が学園理事としてかかわっていた。だから、山陽新聞は@加計問題をできるだけ1面を避けて中面で目立たないよう小さく扱うA共同通信配信記事は、本記を使用するにとどめ、解説やサイドを使っての多角的な報道をしないB社説で取り上げないC見出しは「加計」の文字を使わず「獣医学部新設問題」と言い換える――という報道を展開した。
 団体交渉などで再三、このような報道では、安倍首相が国政を私物化している加計問題の本質を読者に伝えられないと批判する山陽労組が社は、疎ましかった。そして、わずか3人の山陽労組が、サイレント・マジョリティーである第二組合に影響力を広げるのを嫌った。
 新印刷工場をめぐる問題では、社は、社の方針に反して、あくまで直営化要求を下ろさない山陽労組に対して、正副委員長を不利益に取り扱うことで、第二組合への戒めにしたかったのだ。不当配転人事と、紙面をめぐる問題は、異論を許さないという点で同根だった。だから、前川氏を招いた集会が大きな意味を持ったのである。
 会長は利益相反
 前川氏は、山陽新聞会長が加計学園理事を務めていることを利益相反だとして厳しく批判した。さらに、紙面について沈黙する第二組合に「職能団体として、自分たちの立場、仕事、自由であるべき活動を守ることも労働組合の重要な役割だ」と指摘、奮起を促した。
 争議は、岡山県労委が19年11月、「山陽労組の組合員であるが故の、いわゆる見せしめ人事を行ったものと認められる」と、明確に不当労働行為を認定、組合の完全勝利に終わった。しかし、読者の負託に応える紙面づくりは宿題として残されている。
藤井正人(岡山支部)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年5月25日号

posted by JCJ at 11:12 | 中国・四国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする