
日曜日の昼下がりになると、開け放たれた2階の窓から大通りに生演奏が響く。チェロ、フルート、声楽など毎回異なる。場所は新潟市役所に近い中心市街地にあるギャラリー「蔵織」。その1階でクラシックCD専門店を営む佐藤利幸さん(56)の企画で4月に始まった、無料の「ライブ」だ。
新型コロナウイルスの感染予防として演奏会の類も軒並み開催が難しくなった。生演奏の機会を失った音楽家らにその機会を設けたいという思から始まった。「3密」を避けるため開催の告知はしない。だが、通りを行く人たちが思わず足を止めて聞き入る。多彩な演奏家の「出演」に、今では「常連客」までいる。
「蔵織」にはサロンコンサートが開けるスペースもある。そこでの演奏会も再開された。定員は従来の3分の1に減らしている。演奏会前にピアノの調律を依頼すると「3月から仕事がなかったから、ありがたい」と調律師は駆け付けた。
だが、文化芸術に関しても前向きな話題より残念なニュースの方が新潟県でも多いのが現実だ。
5月には大衆演劇の専門劇場「古町演芸場」が閉館した。県内最大の公募美術展「県展」や県音楽コンクールも中止となった。夏の風物詩となっている野外音楽祭「フジロック・フェスティバル」(湯沢町)も初の中止が発表された。
本県ではプロの団体は少ないが、ピアノやバレエなどの教室は盛んだ。レッスンと公演で生計を立てている人が多く、ウイルス禍が直撃している。
市民の文化活動を支援しているアーツカウンシル新潟の調査では、2月以降「休業要請」の影響で公演中止などの影響を受けたのは9割に上り、「節約」や「貯金の切り崩し」でしのいでいる実態も見えてきた。
経済全体で見れば文化芸術が占める割合は大きくはない。だが、公演などには波及効果もある。フジロックには海外も含め10万人もの来場があり、宿泊や飲食が地域経済を潤す。音響舞台関係者、資機材の搬送搬出、設営などの業者もいる。
文化芸術分野への公的支援は後に回されやすい。けれど人は衣食住だけでは豊かに生きられない。カロリーだけ満たされて栄養素を欠くようなものだ。公的支援が急がれる。
高内小百合
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年6月25日号