
新型コロナ禍が市民生活や経済に及ぼしている影響は特に首都圏その他の地域と変わることはないが、関西三都市、京阪神のうち観光産業が大きなウェイトを占める京都では今春以来観光客が激減、とりわけ外国人宿泊客数は四月で見れば前年比99%減の惨憺たる数字となった。「泊れや泊れ」とばかり、この間大型ホテル等の誘致に踊った京都市の観光政策は大きな転換点を迎えたようだ。
ここ数年インバウンド頼みの様相だった観光関連業界は「緊急事態宣言」解除後の国内客回復に期待しているが、五月以降も葵祭行列の中止に続いて七月祇園祭山鉾巡行も取り止めが決まっており、核となる観光行事が失われた状況では見通しも厳しいと思われる。
土産物産業も例外ではなく、例えば少なくとも二百年以上の歴史を持つ菓子「八ツ橋」は、京都市によると観光客の4割が購入している定番商品で、市場規模は100億円に上るとされるが、製造元の経営者は地元紙『京都』に「今春の売り上げはおよそ例年に比べて8割減、億単位の赤字です」「いかに観光客に頼っていたかが見えてきました。ありがたいことにこれまでは、あまり努力をしなくても多く売ることができました、八ッ橋もそうですが、京都の伝統産業は長い時間をかけて、技術や文化が培われてきました。しかし伝統産業が崩れてしまうのは一瞬です」とコロナ禍の怖さを語っている。
大阪でも老舗が店を閉じる。大阪のランドマーク通天閣の「あい方」(高井・通天閣観光社長)ふぐ料理店「づぼらや」(写真)が今秋閉店するという。大阪では「てっ(ふぐ)ちり」イコール「新世界のづぼらや」と答える人は多く、100年の歴史がある老舗だ。閉店のニュースはさすがに全国に流れたが、運営会社は「(大勢で鍋を囲むという)密を避けながらこれまでどおりに営業する見通しを立てられなかった」としている。
新型コロナウィルスは100年の歴史をも駆逐する猛威ぶりだ。
ポストコロナがどうなるか全く予想がつかない。
井上喜雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年6月25日号