2020年07月19日

【新型コロナ禍】 北九州 トップの「動揺」で混乱=杉山正隆

                                                       橋詰さん行き 5面 北九州pt.JPG
 「北九州市は第二波の真っ只中にある」――。北橋健治市長の時折、声を詰まらせる記者会見を連日目にし市民に衝撃が広がった。4月30日から23日間、「感染者0」だった同市では、5月23日から感染者が出始め、再開しつつあった公的施設が再び休館になり、休業に追い込まれる飲食店が出ている。
 中心部の老舗百貨店「井筒屋」は自動体温測定器を設置、係員が立ち入店時のマスク着用と手指消毒を求めた。「マスクは暑くて苦しい」と苦情が続出。専門家は「市長がパニックのようだった。自粛してきた市民への感謝の気持ちを表し、これからも取り組もうとのメッセージが無かった」と話す。
 同市は日本製鉄の高炉廃止に伴い人口が流出し95万人弱まで減少。160万人の福岡市に水をあけられたが九州第二の人口を有す。高齢化率は30%を超し「都会と郊外を併せ持っている」と評される。
 小学校で「感染集団」(クラスター)が発生し保護者に動揺が走った。NHKや民放でほぼ一日中、市長の顔が映し出された。「感染者数は少なく病床数等にも余裕もあるのに、もうダメかもと混乱を招く対応だった」と指摘される。
 病院や高齢者施設でも感染集団が発生したが、市長の「真っ只中」発言とは裏腹に5月29日の26件をピークに新規感染者は減少し数日で1桁に。6月11日には20日ぶりに0になった。感染者が出なかった間も水面下で弱い流行がくすぶっていたとみられる。九州の玄関口で新幹線や飛行機等で県外から流入した可能性もある。
 5月末、「徹底的に対策を採る」(北橋市長)との方針を打ち出し、症状の有無によらず濃厚接触者にPCR検査を行うように。対象を増やしたことで無症状の感染者があぶり出されたともいえる。「方針転換で感染者数が急増することを、市長は分かってなかったのではないか」と市民の間ではささやかれている。「市長が混乱したことで大きな損害を被った」とも。
 感染症は拡大が始まると数年は続くことが多く、恐怖による過剰反応が災禍を拡大する。北九州市での混乱は、来る第二波第三波に向け、首長の言葉に重みがあることを思い知らされた「失敗例」として注目を集めている。
杉山正隆
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年6月25日号

posted by JCJ at 01:00 | 新型コロナ禍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする