2020年07月21日

【おすすめ本】伊東順子『韓国 現地からの報告 セウォル号事件から文在寅政権まで』─いっさいの偏見を捨てて、韓国社会のリアルな姿に深く迫る=洪 相鉉(ソウル在住ジャーナリスト)

 本書の著者は、韓国語だけでなく、韓国の政治ㆍ経済ㆍ社会ㆍ文化に対する幅広い知識を兼ね備え、かつ長年にわたって韓国各地にあるネットワークまでも活用し、充実したルポルタージュを完成させた。
 本書の始まりが2014年4月のセウォル号事件であることは意味深い。リーマンㆍショック以後、急速なグローバル化の渦に巻き込まれた韓国社会は、非正規の船員を雇用し、船の安全点検すら外部委託し、コスト削減への暴走を続けてきた。
 ところが春のある日、324人の高校生を乗せて済州に向かっていたセウォル号が珍島郡の海上で沈没したこの事故は、結局、韓国社会の暴走に歯止めをかけた事件であると同時に、光化門のロウソク集会と朴槿恵政権の退陣、そして文在寅政権の成立まで続く「1987年以降最大の激変期」の始まりだった。

 さらに「異邦人」の著者が、韓国で生まれ育ち、教育を受け、今の社会の主流となっている40代50代の韓国人以上に、韓国社会に対する認識の深さと思考の地平を示していることだ。
 いま韓国の現状は、産業化世代と民主化世代に象徴される保守ㆍ革新の対立を超えて、新しい時代を切り開くための陣痛期にある。
 最も自信に満ちていながらも、最も不安定に見える今日の韓国ㆍ韓国人を理解することは重要である。 こうした目的に本書ほど、有用な本が他にあるだろうか。
 韓国と日本が共生する未来を築く上で、現実を認識することから始めるためにも、本書は日韓双方の必読書にならなければならない。(ちくま新書880円)
「韓国  現地からの報告」.jpg
posted by JCJ at 15:00 | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする