2020年07月25日

コロナ禍を隠れ蓑に 日本など各国で接触追跡アプリ導入 「監視社会」強化 前のめり 有効性は疑問だらけ=橋詰雅博

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新型コロナのまん延で各国は感染防止策としてスマホを使う感染者接触追跡アプリの導入に前のめりだ。すでに世界の40カ国・地域で取り入れられている。また米IT巨大企業のグーグルとアップルが共同開発した基本ソフトを用いたアプリ導入を、欧米や日本など20カ国以上が進めている。しかし、一方では個人情報が政府やIT企業に流れてしまう危険性をはらんでいる。
機能は3タイプ 
20年以上監視問題を取材・研究しているジャーナリストで社会学者の小笠原みどりさんは(カナダ・オタワ大学特別研究員)、スマホを使ったコロナ対策の主な監視機能を3つに分けている。
 一つは移動の追跡。GPS(全地球測位システム)による位置情報からスマホ使用者が移動した場所を追跡して感染の可能性を予測する。そして政府が使用者に外出を許可したり、自己隔離を要求したりする。
中国がその代表例で、アプリの利用は事実上、強制に近い。病院の診察情報も連動させる徹底ぶりだ。中国と異なるが、韓国やイスラエルなども位置情報を取得している。
 二つめは隔離の強制執行。政府が、監視が必要と判断した人たちが、実際に自己隔離をしているかを位置情報などによって見張る。隔離場所から離れると、本人に警告が発信される。警察にも通報がいく。台湾では厳格に実施されている。
 三つ目が接触者の追跡。近距離無線のブルートゥースを利用して、接触者を記録・通知する。
シンガポールや米国、イギリスと同じくこの方式を使う日本の場合、仕組みはこうだ。まず保健所がコロナ感染者などを管理するシステムに陽性者を登録する。その陽性者は保健所の通知を受けて陽性者であることをアプリに入力。アプリをインストールした人が陽性者と接触記録がある場合、接触者アラート≠ェ通知される。さらに接触が確認された人には相談方法などが案内される。アプリを利用するかどうかは、個人の判断だ。
厚生労働省は、携帯電話番号は暗号化され、データは二週間後に自動的に削除されるのでプライバシーは守れるとしている。
差別につながる
これに対して小笠原さんはこう反論する。
「日本のように政府が感染者情報を入力する場合、感染者の特定は避けられない。データは必ず実名で扱われる段階がある。匿名化できるというデータは、裏を返せば、実名化もできるということ。実際、イギリスでは政府が入手した匿名の医療データから感染者を特定する権限を持っていることを英紙ガーディアンは指摘した。病歴など健康に関する個人情報は、最もセンシティブな情報であり、将来、本人が望まない場面で知られれば、就職や結婚、保険加入や取引などで不利に扱われかねない。日本でコロナの感染者捜し≠ェ過酷なバッシングとデマに発展したことを考えれば、接触者情報も差別につながる可能性を無視できない。
アプリの有効性は、すでに導入された国々でもまだ証明されていない。技術が確立していない上、ダウンロードする人が少ない。実際には、行動を追跡されたくない人が多いのだろう。また、十分な感染検査が実行されていなければ、このアプリは機能しない」
 コロナ禍後に監視資本主義(社会、経済、政治までもGAFAが動かす仕組みを指す)は強まるのか弱まるのかについて、小笠原さんはこう言う。
 「『監視資本主義』は、ハーバード大学ビジネス・スクールのショシャナ・ズボフ名誉教授の言葉です。多くの政府や企業が、接触者追跡アプリのように、感染防止対策として人々の行動を監視するツールを矢継ぎ早に導入しているのは、この延長線上にある。が、I B Mなど顔認証システムを開発してきた企業は、いま広がっている人種差別反対の動きに対して、警察への販売を停止すると発表した。
コロナ下で権限が強化された政府によって監視対象にされてきた人々は、こうした監視ツールがいまある不平等を強化し、自分たちに対する暴力として使われることに気づいている。 
日本では五輪を契機に、顔認証のような監視技術が人々の安全を守るという宣伝が先行しているが、顔認証が個人の自由を抑制し、不平等や差別の強化につながることが報道される必要がある。監視によって誰が守られ、誰が排除されるのかを、いまほどジャーナリズムが明確にしなければならないときはない。コロナを口実に息ができない$「界が広がらないように」
不具合も多く見つかった感染者接触追跡アプリの有効性は疑問だ。
橋詰雅博
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年6月25日号
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posted by JCJ at 01:00 | 新型コロナ禍 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする