2020年08月08日

住民置きざりのスーパーシティ構想 管理される個人情報 ビックデータ使用に不安=橋詰雅博 

 街中を自動運転の乗り物が走り、遠隔による医療・教育が受けられ、スマホ決済で現金不要、ドローンが配送、行政手続きがスマホで済ませられる――AIや個人情報などが入るビックデータ、情報通信技術などを活用した「スーパーシティ」(海外ではスマートシティと呼ばれる)というふれ込みのこんな都市が、規制を大幅に緩和し、新ルールのもとで計画が進められる国家戦略特区にできるという。
竹中平蔵が旗振り
 このスーパーシティ構想の旗振り役は竹中平蔵・東洋大教授だ。竹中教授は「(スーパーシティ法案)が早く成立していれば、コロナ危機への対応が違っていただろう」とツイッターに投稿している。ただ、具体的な対応は何も示していない。
 そんなスーパーシティをPRしようと政官民は一体で6月末にオンライン特別セミナーを開いた。国会議員、官僚、首長、学者、1T企業幹部らが講演を行いパネラーとして話した。
 とくに注目されたのは構想を推進する内閣府地方創生推進事務局の村上敬亮審議官の基調講演だ。
「『スーパーシティ』構想の最新動向と今後の展望」をテーマに30分ほど話し、こう要望した。
 「中国のアリババ系列会社が行政と連携する杭州市では、交通違反や渋滞対策にAIを活用し、無人コンビニで顔認証でのキャッシュレス支払いを実施している。ものすごい勢いで技術を使いこんで熟度をあげて、それを広げている。日本にも必要な技術はほぼそろっているが、街で住民を相手に複合サービスを実施した実績がない。関わる事業者が利益を得られるビジネスモデルを構築するためにも早く実践する場が欲しい」
 しかし、スーパーシティには大きな問題がある。国や自治体に集積された個人情報が特区で情報を一元管理する民間業者のビックデータに集められ、不正に使用されて住民のプライバーを侵害する恐れがあるのだ。個人情報の管理の仕方や特区住民とどういう風に同意するのかなどがあいまいなままだから不安は消えない。
グーグル撤退した
 その不安が的中したかのようなケースが特別セミナーで明らかにされた。各国が展開中のスマートシティのネットワーク化を進める世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター長の須賀千鶴氏が挙げたのは、カナダのトロント市のスマートシティ計画の失敗だ。須賀氏はこう言った。
 「グーグルの子会社は、街中にデータ収集のため多くのセンサー(監視カメラ)を設置するなどを提案した。しかし、プライバー侵害発生時の対応計画やデータ保管に関する明確なコミットメントの必要性について、住民への説明が十分ではなかった。このため住民の同意が得られなかった。また、コロナ禍の影響で都市への人の流入が減少し、利益が見込めないとグーグルは判断。5月に撤退した」
 だが、安倍首相はトロントの計画失敗を無視し、「ピンチをチャンスに変える思い切った改革の代表がスーパーシティだ」と内閣府にハッパをかけた。
 政府は年内に5自治体を選定する予定だったが、コロナ禍で自治体の計画が進まないため選定を来年3月ごろにする見込み。ともあれ、自治体とIT企業が手を組むスーパーシティは、住民を置き去りにして計画が強行されそうだ。しかし、プライバシー侵害の不安が残るという市民の声が高まれば、計画を中止に追い込むことは可能だ。トロントの例があるじゃないか。
橋詰雅博
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年7月25日号

posted by JCJ at 01:00 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする