2020年08月11日
イージス・アショア配備撤回 「民意」避け「技術」理由に 防衛相 政治混迷を危惧か=松川敦志
陸上自衛隊新屋演習場への配備を見直すのは時間の問題だろうと思っていた。だが、イージス・アショアの配備計画自体を断念するというのは、正直言って想定の範囲を超えていた。
河野太郎防衛相独自の政治的な決断であるのは確かだが、経緯はわかりにくい。
「行革魂」関係も
ことし1月に米ハワイのイージス・アショア実験施設を視察した際、河野氏は「なるべく早く整備したい」と述べ、配備に前のめりな姿勢をにじませている。
一方、5月6日付の読売新聞が「政府が新屋配備を断念する方向で検討に入り、県内を軸に配備候補地を再選定する方針」と報じ、NHKなど各社が追随した際には、自身のツイッターに「フェイクニュース」と投稿。各報道を非難した。
この投稿に込めた意味が後の撤回表明につながるものだったとすれば、1月のハワイ視察から5月のフェイク発言までの間に、大きな変化が生じたことになる。
注目しておきたい報道がある。会員制の月間総合情報誌「選択」が6月1日発行の6月号に載せた「難航する陸上イージス計画 河野防衛相が『白紙』を検討」という記事だ。「計画を白紙にした場合の影響を調べ始めた模様だ」という内容で、この段階で同様の報道は皆無。全国紙にも先んじた紛れもない特ダネである。
この情報を入手した時期について秋田魁新報が編集部に問い合わせたところ、「5月19日の時点で情報を得ていた」との回答が得られた。さらに、5月号に掲載していた「河野防衛相の『行革魂』が再燃」という記事が一連の経緯の伏線だという示唆もあった。コストカッターで鳴らす河野氏が、防衛省内の「無駄削減」に乗り出し、自衛隊内に反発する声があると伝えるものだった。
知事選も考慮か
こうした経緯や、われわれの取材を踏まえた私の推論は次のようなものだ。
昨年9月に防衛相に就任した河野氏は当初、規定方針通り配備を進める考えだった。そして、秋田に関しては新屋演習場への配備を取りやめ、県内の他地区を新たな配備候補地とする方針が防衛省内で固まった。
しかし、秋田では2021年4月に知事選が予定され、このままいけばイージス・アショア問題が大きな争点となることが明らかだった。そして、その場合は昨年7月の参院選同様、配備反対を訴える候補の優勢が予想され、配備計画が長い混迷に入るというシナリオが十分に考えられた。
そうした現状分析に、「行革魂」が加わり、計画そのものを撤回するという案が河野氏の中で膨らんでいった。
経緯はなお不明
ただ、地元住民の反対を理由に計画を断念すれば、政府にとっては政策遂行の是非を考える際に民意を大きな判断材料にするという「悪しき先例」をつくることになる。そこで持ち出されたのが、上昇推進装置「ブースター」の落下位置を完全には制御できないという、技術的な問題だった――。
いずれにせよ、イージス・アショア問題は導入の経緯からして不明な点が多い。配備問題を巡る混迷を2年半余り追ってきたわれわれは、これからも息長く取材を続けていく考えでいる。
松川敦志(秋田魁新報・社会地域報道部長)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年7月25日号