2020年08月12日

【オンライン講演】 黒人暴行死で矢部氏が講演 少数派になる白人に不安 米の暗部 KKK時代から=須貝道雄

          Zoomを使ってのオンライン講演会.jpg    ジャーナリスト・矢部武さん.jpg
 米国ミネソタ州のミネアポリスで5月に起きた白人警察官による黒人暴行死事件。その背景には何があるのか――。JCJは7月4日、米国事情に詳しいジャーナリスト、矢部武さんを講師に「黒人が殺される国アメリカの深層」と題してオンライン講演会を開いた。ビデオ会議システムZoomを使う初めての試みだった。
 標的は大きな体
 8分46秒にわたって警官の膝で首を圧迫され、死んだ黒人男性ジョージ・フロイドさん(46)は以前から「オレはいつ殺されるかわからない」と友人に漏らしていたという。白人警官から、車を停止させられることがしょっちゅうあったからだ。
 矢部さんによれば、白人警官は体が大きくて強そうな黒人男性を標的にする。国勢調査のデータでは2015年からの5年間、全米で毎年千人から千数百人が警官の暴力で死亡し、うち黒人は約26%を占めた。黒人の人口比は約13%だから、その2倍の数値だ。
 今回の事件では10代の通行人が撮ったとされる衝撃的な動画が世論を喚起した。遺族は「殺意は明白。公開処刑だ」と世に訴えた。だがもし、この映像が無かったら「フロイドさんの死も、単なる数字の一つとして片付けられ、何もわからなかっただろう」と矢部さんは話した。
 警官の行動の背後には白人至上主義がある。トランプ大統領は「白人の国を取り戻してくれ」という声に乗って選挙に勝った。米国勢調査局によれば、白人の人口比は現在60%だが、2045年には49%台にまで減る。いわば少数派に転じるわけで、その不安が白人至上主義への同調につながっているという。
 「奇妙な果実」が
 米国の黒人差別の歴史は400年以上になる。初めてアフリカから奴隷を連れてきたのが1619年。1865年の南北戦争で北軍が勝ち、奴隷制度は廃止になる。だが同時に、奴隷を使っていた白人至上主義者たちが黒人を迫害するKKK(クー・クラックス・クラン)という団体をつくる。白頭巾にたいまつを持って現れ、黒人の家に火をつけ、逃げた者を木につるして殺すなどのリンチが1950年代まで続いた。
 ジャズ歌手のビリー・ホリディ(1915〜1959年)はこうしたリンチに抗議し、「奇妙な果実」の曲名で悲劇の黒人たちを歌った。
 1964年の公民権法で黒人差別は明確に禁止された。だが意識は変わらず、資産格差も大きい。矢部さんが示したのは資産保有額の中央値だ。2013年時点で黒人世帯は1万1200jなのに対し、白人世帯はその13倍の額に達している。
 延期か中止狙う
 こうした中で、今年の大統領選挙はどなるかに話が進んだ。トランプ大統領は新型コロナウイルスの感染拡大に、あまり心配する様子を見せていない。矢部さんは「彼は混乱が大好きだから。どんどん感染が広がり、死者も2〜3倍になれば、11月選挙どころではなくなる。延期か中止をもくろんでいるのではないか」と推測した。
 米国の友人とも話したという。ただ延期や中止を決める権限は議会にある。もし、トランプ大統領が選挙をせずに、21年もその座にとどまろうとしたら、おそらくペロシ下院議長が暫定大統領となり、ホワイトハウスに軍を送って、大統領は引きずり出されるだろうという議論になったとか。予断を許さない情勢だ。    
須貝道雄
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年7月25日号
posted by JCJ at 01:00 | オンライン講演 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする