2020年08月17日

河井事件 広島政界大揺れ 疑惑は安倍政権直撃か 選挙のあり方 根本見直し=難波健治

                IMG_8894●1面用20200618金座街入り口・撮影川后和幸.JPG
 昨年7月の参院選をめぐる大規模買収事件が、広島県政界を揺るがしている。事件が発覚して9カ月。この間、衆院議員で前法相の河井克行被告(57)と妻で参院議員の河井案里被告(46)が逮捕、起訴されただけでなく、7月17日までに買収された側の首長3人、市・町議4人が辞職、町議1人が辞職を表明。地方政界を襲った激震は今後、安倍政権を直撃する可能性をはらんでいる。
 疑惑は、昨年10月末の週刊文春記事が発端となった。昨夏の参院選で定数2の広島選挙区に県議を辞めて立った案里被告の陣営が、車上運動員(いわゆるウグイス嬢)に法定額上限を超える報酬を支払った疑いが浮上し、克行被告が法相を辞任したのが始まりだ。
溝手「切り崩し」
 事件は、自民党本部が河井夫妻に1億5千万円もの政治資金を送っていたことが発覚して様相を大きく変えた。広島選挙区でもう一人の自民公認候補である現職の溝手顕正氏(77)=元国家公安委員長=への交付金は1500万円だった。なぜ同じ公認候補に10倍もの差をつけたのか。夫妻に渡された巨額資金の使途は何か。党総裁としての安倍晋三首相のかかわりが注目された。
 溝手氏は第1次安倍政権を首相が1年で投げ出した時、首相を「過去の人」と評した。首相は、2013年の参院選でも溝手氏にぶつけるかたちで2人目の自民候補擁立を画策したが、当時の石破茂幹事長らの反対で断念したいきさつもある。
  今回の案里擁立をめぐっても地元自民党県連は2人目の擁立に絶対反対の姿勢を崩さず、結局、安倍首相や菅義偉官房長官らが押し切るかたちで定数いっぱいの候補擁立を強行した。告示後は首相をはじめ、菅官房長官らが次々と広島入りし、「案里、案里、案里をよろしく」と繰り返した。
金権政治解明を
 案里候補擁立の狙いは、広島選挙区で自民が2議席を独占することではなく、政敵・溝手氏の追い落としにあったのではないか。また、1億5千万円のうち1億2千万円は、国民の税金である政党助成金から支出されたことも報道され、県民の反発をいっそう買っている。首相の秘書団が数人規模で広島入りして企業回りをし、溝手票の切り崩しにあたったことも明らかになっている。
 東京地検は河井夫妻の起訴にあたり、「地元政治家ら100人に約2900万円の現金を配った」としている。うち政治家は40人。これまで溝手氏を支援してきた人たちも当然含まれている。
 夫妻の逮捕でこれら政治家は大いにあわてた。「トイレでポケットに封筒をねじ込まれた」「『安倍さんから』と言われ断れなかった」などの告白ドミノが起き、辞職も続いている。
 夫妻は7月8日、買収と事前運動で起訴された。しかし地検は「起訴すべきは起訴した」という言い方で、被買収者100人全員の刑事処分を見送った。「カネを受け取った者も許してはならない」との市民の声が投書欄などにはあふれている。
 法務行政のトップが訴追された事件は新たな局面に入った。8月上旬までに始まる百日裁判では金権政治の実態がさらに明らかになるはずだ。
 県内では15年前にも「政治とカネ」をめぐる問題が起きている。故藤田雄山前知事の選挙で県議らに現金が渡され、1期目は総額2、3億円に上ったとの疑惑が浮かんだものの真相は明らかにならなかった。この時、県議として前知事に「男らしく辞めなさい」と迫ったのが案里被告だった。
  今回の河井事件報道を一貫してリードしてきた地元紙・中国新聞の担当デスクは「選挙のあり方を問い直したい」と述べている。論説主幹はコラムで「脱・お任せ民主主義」「『べからず』公選法を変えよう」と提言した。選挙カーが連呼するだけで「あれもダメこれもダメ」の公選法そのものに金権選挙がはびこる盲点があるのではないかとの指摘である。
 8月2日には、三原市と安芸高田市で、今回の事件で現金を受け取り辞職した市長の出直し選挙が始まる。どのような選挙が行われ、報道はどんな視点で何を読者に問題提起するのか。「ポスト河井」の選挙と報道の行方を見守りたい。
難波健治(広島支部)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年7月25日号

posted by JCJ at 01:00 | 事件 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする