2020年08月18日
「妥当な判断」山口県・阿武町長 イージス・アショア撤回=嶋沢裕志
唐突なイージス・アショア配備計画撤回は、もう1つの配備予定地だった山口県側に、より大きな衝撃を与えている。
山口県は安倍晋三首相まで歴代8人の総理大臣を輩出した保守王国。村岡嗣政知事はじめ全19市町の首長が自民党だ。陸上自衛隊むつみ演習場(萩市・阿武町)を巡っては、大物議員らの工作も奏功。「秋田のようなミスはない」と受け入れムードに傾いていた。
例外が阿武町だった。
「奇跡です。信じられません」。6月15日夕、阿武町の知人から、花田憲彦町長と職員が役場でNHKニュースを見入る映像が送られてきた。
本紙がイージス・アショア配備に真っ先に反対した花田町長インタビューを掲載したのが昨年9月号。「私も自民党員だし、ミサイル防衛のあり方に反対する訳ではないが、町が進めてきた移住施策、『選ばれる町づくり』という地方創生施策と相容れない」と語った。
とはいえ北朝鮮の弾道ミサイルの進化も知悉(ちしつ)している。「最初からむつみありき」で来る防衛省側の不誠実、緊張感の欠如に新屋演習場と同じ臭いを嗅いでいた。
6月19日、河野防衛相が謝罪・説明のため山口県庁を訪れた際、そんな温度差が露呈した。「住民にしっかり経緯を説明してほしい」。怒気を帯びた村岡知事、藤道健二萩市長らの語気に比べ、花田町長は「賢明な選択」の一言だった。
ブースター云々の背後に潜む新防衛網の解読は、我々に託された大きな宿題だろう。
嶋沢裕志
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年7月25日号