式典の8日前、広島地裁は「黒い雨」集団訴訟で原告84人全員を被爆者として認めるよう求める画期的な判断を示した。
迫る核禁条約発効
また、この日を待っていたように3カ国が核兵器禁止条約を批准した。その後、9日に1カ国増え、条約が発効する基準となる50カ国まで残り6カ国となった。
被爆75年の節目に日本政府がどのような姿勢を示すのか。核保有国に同調し条約に背を向ける姿勢を改めて欲しい。だが、市民の期待は見事に裏切られた。安倍首相は式典のあいさつで核兵器禁止条約には一切ふれず、「立場の異なる国々の橋渡しにつとめる」と、いつもの言葉を繰り返し、核保有大国の「お先棒担ぎ」の姿勢にしがみついたままだった。
控訴断念に答えず
式典後の懇談会で被爆者団体代表は、黒い雨援護対象区域拡大や広島地裁判決への控訴断念を口々に求めた。だが、安倍首相は答えようとせず、会を40分で閉じた。6日後の12日、国は広島県、広島市を説得し、地裁判決を不服として、広島高裁に控訴した。
「人類が滅びるとしたら、核兵器か地球温暖化(気候危機)、感染症パンデミックのどれかによるだろう」。世界へ反核の旅を続けてきた89歳の被爆者の言葉である。
この3つが地球に重く垂れこめるこの夏、唯一の戦争被爆国のトップは、危機打開の道を何ら示すことなく黙ったままだ。
3つの危機は人類の活動が招いた災禍だが、核は政治の決断で廃絶が可能なものだ。
判決前 報道は健闘
ジャーナリズムの「2極化」の中、この夏もいくつかのメディアは核兵器廃絶に向けた報道に力を尽くした。「黒い雨」判決を前にした毎日、朝日などのキャンペーンは、この報道が7月29日の広島地裁判決を引き出したのではないか、と思わせるほどの迫力があった。8月2日付毎日新聞の「長期不明のままだった草創期の広島被団協資料500点確認」は、被爆者運動の原点を明らかにし、その意義を明確にしたものとして特筆される。放送の分野でも、若い人たちの視点を生かした力作が目についた。
難波健治(広島支部)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年8月25日号