2020年09月24日

改憲に言及しなかった長崎平和宣言 「政権批判するな」と圧力? トーンダウン 首相への忖度か=関口達夫

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  被爆75年の今年、長崎市の平和祈念式典=写真=で田上富久長崎市長が読みあげた平和宣言は、日本政府に対して核兵器禁止条約の署名・批准だけでなく日本国憲法の平和の理念の堅持を求めており、広島の平和宣言より高く評価されたかも知れない。
 しかし、原爆、平和問題を永年取材し、平和宣言の変遷を知る者からすれば、今年の宣言は、安倍首相への忖度を感じざるを得ないものだった。それは平和宣言が2014年、安倍首相の集団的自衛権の行使容認は「戦争をしないという平和の原点が揺らぐ」として、国民の不安の声 に耳を傾けるよう訴えてきたからだ。
  宣言は15年も、同じ理由から安保法制について安倍政権に慎重審議を求めた。だが、翌16年からは「日本国憲法の平和の理念を堅持するよう求める」と、抽象的な表現へのトーンダウンが始まった。
 長崎の平和宣言は、被爆者や学識者、若者らで構成される平和宣言起草委員会の意見を参考にして作成される。
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抽象化進む宣言
 16年の起草委員会では憲法9条を改正しようとする動きに警鐘を鳴らすよう求める意見が相次いだ。しかし、田上市長は、憲法改正に言及せず、憲法の平和の理念を堅持せよという表現に留めた。なぜ平和宣言は変質したのか。それは安倍首相とパイプがある長崎県選出の自民党国会議員が、田上市長に平和宣言で政府批判をしないよう”圧力“をかけたからといわれている。
 コロナ禍に乗じて安倍首相や自民党から、憲法に緊急事態条項の新設を求める声が上がった今年は、被爆者らから平和宣言起草委員会で、緊急事態条項の新設や9条に自衛隊を明記する憲法改正案に反対するよう求める意見が出されたが、宣言には全く反映されなかった。
  このことは、戦争と原爆で甚大な被害を受けた被爆地としては看過できない問題だ。何故なら憲法9条に自衛隊を明記すると、自衛隊が海外でアメリカなどと一緒に正々堂々と戦争をすることが可能になり、その結果日本が戦争に巻き込まれ、場合によっては再び核攻撃を受ける危険性さえ生じるからだ。
危うい現実伝えて
 だが、平和宣言が憲法改正の動きに言及しなかったことを報道したマスコミは皆無だった。それは、記者たちが若く、憲法改正や敵基地攻撃論議など日本を戦争する国にしようとする動きに関心が薄いからではないか。原爆は、戦争の過程で投下された。だから記者たちには、核問題だけでなく戦争につながる動きにも関心を向けて欲しい。
 そうすれば日本が、安保法制や憲法改正によってアメリカの戦争を支援する体制を整えつつあることがわかる。その上で平和宣言が憲法改正に言及しなかったことを報じれば被爆地の市長を取り込んで戦争へと突き進む日本の危うい現実を伝えることができる。
関口達夫(元長崎放送記者)
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年8月25日号


posted by JCJ at 01:00 | 中国・四国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする