安倍晋三首相の街頭演説にヤジを飛ばした市民が警察官に強制排除された問題で、警察の行為を検証するドキュメンタリー番組を制作したテレビ局スタッフによる報告会「ヤジと民主主義〜小さな自由が排除された先に」が7月15日、札幌で開かれた。JCJ北海道支部が例会として企画した。
支部会員、読者会員ら35人が参加。番組(46分版)上映後、プロデューサーの山ア裕侍・HBC報道部統括編集長(47)と当時道警担当だった長沢祐(たすく)記者(27)が制作の意図などを話した。
番組は映像の力で警察の異様さを物語る。力づくの排除、排除後も女性につきまとう女性警察官の言動、能面のような表情で、「事実確認中」と繰り返す道警本部長。「年金安心どうなった?」と書いたプラカードを無言で掲げようとしただけで排除された女性など、丹念に集めた場面とそれらをつなぐインタビューにより、普段は見えにくいこの国の権力の姿が時代背景を伴って像を結ぶ。
山アさんが敏感に反応したのは三つの危機感から。表現の自由をめぐる社会の不寛容さ、政治的主張を理由に排除する権力の暴走、これを問題と思わないマスコミ――。積極的なニュース報道から始め、TBSの協力で全国放送枠を確保して作品につなげた。
長沢記者は山アさんの厳しい指導と助言を受けながら、取材に精力的に取り組んだ。警察組織を批判する報道は初めて。「怖さもあった」と正直に語る。取材を通じて「マスコミは権力監視が形骸化している。私たちは本来の役割を認識すべき」と痛感したという。
排除された当事者の市民も参加し、世論喚起に果たすメディアへの期待感などを語った。
番組は放送批評懇談会のギャラクシー賞報道活動部門で年間優秀賞に選ばれた。YouTubeで視聴できる。
山田寿彦(北海道支部)
道警ヤジ排除問題
2019年7月15日、JR札幌駅前で参院選の遊説中だった安倍首相に対し、「安倍やめろ」「増税反対」と叫んだ男女2人が警察官に強制排除された。2人はそれぞれ国家賠償請求訴訟を起こし、地検に刑事告訴(不起訴処分)した。排除は取材中の報道各社の目の前で起きたが、朝日新聞が翌々日の同17日朝刊で初めて報じた。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2020年8月25日号