11月4日、カジノ誘致に関する住民投票実施のための署名活動が法定の2か月間を経て終了した。集まった署名は20万5800筆にのぼり、住民投票条例の申請に必要な6万2千500人分の3倍以上となった。署名は事前登録した受任者が集めなければならず、住民投票の実現を推進する「カジノの是非を決める横浜市民の会」は署名開始にあたり、実に4万3千人もの協力者を得て臨んだ。広域圏自治体における住民直接請求の成立はただでさえ難しいところに、コロナにより各種の集会が制限され活動は困難を極めた。
しかし、市民の反応は好意的で街頭署名には行列も出来るほどであった。集められた署名は居住区ごとに仕分けられ、11月13日に市内18区の選挙管理委員会に審査のため提出された。選管が有効な署名と判断すれば、林市長が市議会に条例案を提出し、可決されれば来春にも住民投票が行われる。
署名活動は横浜市議会全野党の賛同を得て進められたが、政治的な枠組みを超え保守層からの支持も拡大している。山下ふ頭の地権者である横浜港運協会前会長はカジノに反対し退去はしないと公言。また、神奈川県議会議長や自民党県連代表を長年歴任された保守の重鎮もカジノ不要を表明している。9月の市議会では市長に対し自民党市議からもIRカジノについて「事業効果を再確認する必要があり、事業の推進は冷静に進めるべき」との意見が出された。市長は記者会見で本年度のカジノ関連予算の減額と来年度の事業費見直しを示唆した。
さらに、市民による署名活動の高まりを受け市長は会見で「住民投票が実施された場合にはその投票結果を尊重し、反対多数の場合は横浜誘致を撤回する」と述べている。住民運動が市に方針転換をもたらせた意義は大きい。政府は自治体からの地域整備計画の受付を9か月延期した。すでにラスベガス・サンズ等の米国系参入予定企業は撤退し、国内で参入予定のセガサミーも人員整理を始めた。現状では世界のカジノ事業者はコロナ禍で財務内容が悪化して新たに投資するような余裕はなくなっている。住民投票の結果を待つまでもなく、1日も早くカジノ撤退の決断をすべき時である。
伊東良平