2020年12月01日
【北海道支部】 核のごみ問題で講演会 北海道新聞編集委員・関口裕士さんが語る パート1=高田正基 10月27日、札幌市教育文化会館
メディアも追いつけぬ動き
高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分地選定に向けた文献調査を巡る動きには、なかなかメディアも追いつけていない。寿都町が応募を検討していることを道新が報道して表面化してから2カ月、神恵内に関しては1カ月で国の申し入れを受諾するというトントン拍子で進んでいる。私も書きたいことをいろいろと考えるが、そのタイミングが来る前に次に動いてしまうこともあって、忸怩たる思いをすることがある。
最初に私の基本的なスタンスを話したい。私は基本的に原発をやめた方がいいと思っている。3・11以前から原発について取材しているが、二つの理由を確信として持っているからだ。一つは、事故があったときの被害が大きすぎること。もう一つが、これから話す核のごみが未来に大きな負担を残すことだ。
「非科学的」な特性マップ
高レベル放射性廃棄物を埋められる適地を国が示した「科学的特性マップ」がある。札幌市でも北側の一部は緑色で塗られている、ここは国が最適地というお墨付きを与えた場所。南側のオレンジ色の部分は「ここはやめておこう」という場所だ。国は、200万年前以降に噴火した火山の半径15キロ以内とか、見つかっている活断層の周辺などを不適地と示している。札幌市の場合は、南側で藻岩山が噴火したことがあるということでオレンジ色になっている。
この科学的特性マップは、2017年に国が発表した。全国を4色に色分けしている。核のごみは青森・六ケ所村の再処理工場から海上輸送するので、海に近い方がいいということで、沿岸20キロ以内のところを濃い緑色の最適地と示している。国によると、最適地とは「好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い場所」。国もだいぶ気を使っているようだ。
科学的な地図だと言うので、いかにも専門家が議論して決めたように思うが、マップが発表される1週間前に、こんな地図になるのではないかと私が考えて作った地図を道新に掲載した。ほとんど同じだ。科学的特性マップと言うが、いろんな条件を単に拾い上げているだけで、専門家でなくても素人でも資料さえ手に入れば作れるということを示したかったからだ。
「科学的特性マップ」と言われると、専門家が決めたと思いがちで、一般の人はメディアも含めてなかなか反論できない。科学者の持っている資料の方が圧倒的に多いと思ってしまいがちだが、実は全然科学的ではないということを最初に言っておきたい。だから、「おたくの村で受け入れてくれ」という話をされるのは、全くおかしい。神恵内村は、ほとんどがオレンジ色でわずかに緑色があるだけだ。そんなところに国が「処分地になってくれないか」と申し入れた。おかしいと思わないか。
私は、原発はなくした方がいいと思っているが、核のごみをどうすればいいのかということに関しては極めて難しい。すでにある核のごみをどうすればいいかということについては、なかなか答えが出ない。メディア関係者の多くもどうしたらいいかと思っており、きっぱりとした結論を私自身持っているわけではない。ただ、そんな難しい問題なのに、専門家や国、NUMOだったりがあまりにもずさんで、いいかげんで、適当なことをしているということに極めて腹を立てている。
私は10年以上、核のごみについて取材しているが、経産省のこの問題の担当者はもう6代目だ。1年か2年でころころ変わる。それで長期間にわたる核のごみの事業を本当にやれるのかという不信感もある。
20秒で死に至る放射線量
日本では、原発の使用済み核燃料は青森・六ケ所村にある再処理工場に持って行き、再利用できるウランとプルトニウムが取り出される。そして、再処理で残った5%ほどの液体をガラスと混ぜ固め(ガラス固化体)、それを30〜50年冷やした後、金属製の容器に入れて特殊な粘土「ベントナイト」でくるみ、地下300メートルより深い地下に埋めようとしている。それを地層処分と言う。
ガラス固化体は高さ1.3メートル、直径45センチ、重さは500キロ。日本国内では、使用済み核燃料がすべて再処理されると2万6千本分になる。国はまだ原発を再稼働しようとしているので、4万本分にまで増える見通し。それを全国で1カ所に作る最終処分場に埋めようとしている。
ガラス固化体で鍵となる数字が「1500シーベルト」と「10万年」。毎時1500シーベルトはガラス固化体が作られた直後の表面の放射線量だ。2人が被ばくして亡くなった東海村のJCO事故では、多い人で16〜20シーベルト、もう一人が6〜10シーベルトの被ばくだった。人間は7シーベルト分の被ばくをすると、間違いなく死ぬ。核のごみの表面は毎時1500シーベルト。20秒ぐらいで7シーベルトに達する。
札幌の放射線量は今、0.03マイクロシーベルトぐらい。福島第1原発3号機の前で測ると、332マイクロシーベルト。私が行った中で一番放射線量が高いところで700マイクロシーベルトぐらいだった。重装備でないと行けない。1000マイクロシーベルトが1ミリシーベルト。1ミリの1000倍が1シーベルト。さらにその1600倍が核のごみ。どれくらい放射線量が強いかということが分かると思う。
10万年は、核のごみがウラン鉱山にあるウランと同じレベルの放射線に下がるまでにかかる時間。過去にさかのぼると10万年前はネアンデルタール人の時代。言葉も通じない時代だ。1世代を33年と考えると10万年後は3000世代先になる。そこまで負担を残してしまう。東日本大震災は1000年に一度起こる地震、津波と言われたが、10万年の間には100回起こる。こんなものを埋めてしまって大丈夫なのか。
地層処分うまくいくのか
六ケ所村にはすでに、海外で再処理してもらったガラス固化体が2千本以上ある。将来的には4万本分を全国で1カ所作る最終処分場に埋めようとしているが、処分地を探す動きは昔からあった。
海底に投棄する議論もあったし、宇宙に捨てようという議論もあった。しかし、宇宙に運ぶ途中で爆発すれば地上に降り注いでしまうので諦めた。南極の氷の下に埋めてしまおうという氷床処分も真剣に考えられた。
しかし、三つともダメだったので、世界的には今、地下深くに埋める地層処分が考えられている。原子力資料情報室共同代表の西尾漠さんは「危険の埋め捨てだ。危ないものを地下に埋めておくのは良くない。時限爆弾のようなものだ」と批判しているが、地層処分の推進を研究している原子力安全研究協会技術顧問の栃山修さんは「安全のための隔離だ。今、原発の利益もあるうちに、その金を使って地下深くに埋めれば、将来世代に負担を掛けなくて済む」と言っている。なかなか結論が出ない話だ。日本でも地層処分を国策で進めているが、日本学術会議は2015年に「地下に埋める技術は確立しておらず、国民の合意形成もできていないので、原則これから50年は地上で保管すべきだ」という提言もしている。
狙われ続けてきた北海道
北海道は昔から、核のごみの処分地として国や電力会社に狙われ続けてきた。1980年代には動燃の極秘調査で、処分場の適地として道南の一部やオホーツク海側の猿払村辺りが挙げられた。それにつられて興部町では、住民が町に処分地に手を挙げるよう陳情した。代表を務めた生コン会社の社長になぜ応募を働き掛けたかと聞くと「生コン売れるべさ」。あからさまだ。適地には挙げられていないが、夕張商工会議所も2008年、市長に出した「地域振興に関する検討について」という要望書に、自衛隊基地誘致やカジノ誘致とともに高レベル放射性廃棄物の最終処分場誘致を盛り込んだ。
全国では、高知県東洋町が2007年、実際に処分地調査を受け入れると応募した。しかし、町民から反対の声が上がり、出直し選挙で現職町長が大敗して、次の町長が応募を取り下げた。全国の地図を見たら、本当に端っこばかり。辺境、過疎、財政難の自治体、そういうところが手を挙げてしまう。国もそういうところを目掛けてやってみないかと言い続けてきた歴史がある。
北海道で興部や夕張よりも関係が深いのが、核のごみを処分するための技術を研究している幌延深地層研だ。全国ではもう1カ所、岐阜県瑞浪市でもやっているが、2022年で研究をやめるので、幌延だけが残る。今、地下350メートルまで掘っている。1980年に幌延町長と町議が福島第1原発を視察し、2年後に町長が放射性廃棄物施設の誘致を表明。動燃が84年に貯蔵工学センター計画を公表した。これは、道民の反対運動を受けて撤回したが、2000年に地層処分の法律制定後、核のごみは持ってこないが研究だけしようということで設置が決まった。
80年代の幌延では、反対運動がさかんだった。当時、動燃が開いた住民説明会では、「核のごみから放射線が出ると、医療機器の殺菌ができる、汚泥を改良できる、ばい菌が死ぬ」といった資料を配っていた。核のごみはすごい熱が出るので、持ってくればロードヒーティングも無料、温水プールも無料と住民に説明して回った。その程度のばかばかしい説明を続けていたことが腹立たしい。
8月に、新潟・旧巻町を取材で訪れた。巻原発建設に関する全国初の住民投票が行われ、住民の意思で原発を拒否した。今、寿都町内でも住民投票の動きがある。住民投票は公選法の縛りが掛からないので、お金があるところが広告を打つし、いろんな行動をする。寿都で住民投票が始まれば、NUMOや北電が町民向けにチラシを配布したり、テレビCMをやったり、説明会を開いたりなどということも起きてくると思う。住民投票となれば、国やNUMOの人が「こんなに安全だ、こんなに多重防護しているので放射能の心配はない、こんなに経済効果がある、恩恵がある」という説明を繰り返すだろう。
高田正基