2020年12月04日

【おすすめ本】 宇田有三『ロヒンギャ差別の深層』「ムスリムとして生きる」権利を蝕む差別への深い考察=藤井満(元朝日新聞記者) 』  

 国際政治や民族・宗教・差別の問題を現実から学べる教科書のような本に仕上がっている。
 ミャンマーからバングラデシュに流出したロヒンギャ難民は、「民族紛争」「宗教迫害」と報じられたが、そうした見方こそが問題を深刻化させたと著者は批判する。
 ロヒンギャの人々は、「ロヒンギャ民族」ではなく「ムスリムとしてのロヒンギャ」と自らを位置づける。だが国際社会が「民族浄化」などと批判することで、ロヒンギャの一部が民族性を主張し、同じ地域に住む仏教徒との対立が生じた。
 ロヒンギャ問題の原因は、軍事政権が「仏教徒としてのミャンマー人」への同化政策を進め、ムスリム差別を刺激したことと、ロヒンギャを「バングラからの不法移民」と規定したことにあるという。その結果、ロヒンギャへの差別は、民主化運動で軍政と対峙した人びとにも浸透した。
 アウンサンスーチー氏は、ロヒンギャ問題で人権団体から強く批判された。著者はスーチー氏を「人権活動家ではなく政治家」と評する。彼女は現実を改善するためには軍とも妥協するが、いま「ロヒンギャの人権」を叫んでも事態が改善しないのは目に見えている。
 軍政以来の差別を見すえ、正しい情報を広め、少しずつ解きほぐすしかない。それができるのは、人気と政治手腕を兼ね備えるスーチー氏しかないと著者は見ている。
 日本では、「インパール作戦」「泰緬鉄道」は有名でも、現地人の犠牲には言及されない。日本軍が仏教徒を、英軍がムスリムを自軍に引き入れることで、ムスリム差別の一因を作ったことも報じられない。ロヒンギャ問題は日本の報道の歪みも露わにしている。(高文研2500円)
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posted by JCJ at 01:00 | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする