2021年02月05日

【月刊マスコミ評・出版】 政治のうそをあばくということ=荒屋敷 宏

 ベトナム戦争に関する米国防総省の機密文書を入手し、報道したニール・シーハン記者が1月7日、米ワシントンの自宅で死去した。合掌。シーハン記者が、いわゆる「ペンタゴン・ペーパーズ」を暴露したのは1971年のことだった。他紙も追随し、当時、米司法長官が「ニューヨーク・タイムズ」に次回以降の掲載中止命令を出す騒ぎとなった。が、米連邦最高裁は継続掲載を認めた。
 掲載を支持したスチュワート判事は、「自由に取材し報道できるメディアなしには、啓発された国民など存在しえない」と意見を述べた。あれから50年が経過した。
 日本の出版界に目を転じると、「週刊現代」が1月9日・16日合併号で久しぶりに政治ネタ、「ガースーはもうおしまい 2021年 日本の大問題――次の総理は誰か」を掲載した。産経新聞を除く大手紙・通信社の政治部記者がアンケートに、菅総裁で総選挙は「勝てない」「現有議席からは減らす」と答え、次の総裁に「岸田文雄か河野太郎」などと予想している。菅政権の支持率低下をふまえた企画だろう。日本の政治状況を狭く捉える旧態依然に鼻白む思いだ。
 「週刊文春」1月14日号は、西浦博・京都大学大学院教授に取材して、いまや人災化した新型コロナウイルス対策の東京での無策ぶりを指摘している。批判の矛先は小池百合子東京都知事と菅首相だが、同誌の首相退陣のXデーを予想する記事は、迫力に欠けている。
 「世界」2月号が泉澤章弁護士の「首相の犯罪に裁きを 桜を見る会疑惑」、環境ジャーナリストの青木泰氏の「政治の私物化を断つ 森友問題――政権が隠蔽する真実を暴く」を特集している。新年の出版界で、政府のウソを暴くシーハン記者の遺志を受け継ぐ報道姿勢を堅持しているのは、総合誌では「世界」だけとは、情けない。
 1年前に出版された柴山哲也著『いま、解読する戦後ジャーナリズム秘史』(ミネルヴァ書房)からは、啓発されることが多い。柴山氏はベトナム戦争報道をめぐって、こう書いている。「新聞の役割は、政権や政府が国民に対してついていた『嘘』の事実を暴くことだ」と。
 ジャーナリズムが立法、行政、司法に並ぶ民主主義の監視・チェック機構としての「第四の権力」と巷間で呼ばれることがなくなって久しい。報道機関が政府にとりこまれ、政府のウソを見て見ぬ振りをすることは、最悪の事態を招く。そのことは、歴史が証明しているのではないか。温故知新。 
荒屋敷 宏
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年1月25日号

posted by JCJ at 02:00 | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする