著者が渦中の会員候補6人のひとりと知って、本書を手に取った方も多いのではなかろうか。出版のタイミングは偶然とはいえ、本書の内容は、はからずも安倍・菅両政権への批判となっている。
現代は民主主義がさまざまな危機に直面している時代、と著者はいう。ポピュリズムの台頭、独裁的指導者の増加、第四次産業革命とも呼ばれる技術革新、そしてコロナ危機などだ。
「民主主義の国」アメ リカにおける大統領の暴走と深刻な国民分断は、だれしも思い当たるところだろう。
しかし本書によれば、民主主義は2500年以上の歴史の中で何度も試練や批判にさらされ、それを克服しきたという。古代ギリシアで「誕生」し、近代ヨーロッパへと「継承」され、自由主義 と「結合」、そして20世紀における「実現」へという流れを、プラトンからルソー、トクヴィル、 丸山眞男に至るさまざまな論考の紹介とともに解説してゆく。
その語り口は穏やかで過不足なく、「民主主義の教科書」としての魅力を際立たせている。
だが本書の真骨頂は、そうした歴史を貫くキーワードとして、「参加と責任のシステム」としての民主主義を強調している点だろう。
自分たちの社会の問題解決に参加すること、それを通じて政治権力の責任を厳しく問い直すことが民主主義にとって不可欠の要素、と著者は訴える。
そこにこそ、いまの政権が著者を忌避した真の理由があるのだと思う。
(講談社現代新書940円)
