2021年02月25日

憲法の回復を求めて 学術会議任命拒否問題 東京慈恵医科大学 小澤隆一教授

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事務局からの電話
 2020年9月29日の夕方、大学の研究室に日本学術会議(以下、学術会議)の事務局長から電話がかかってきました。2日後の10月1日に総会が予定されている学術会議の会員に私が任命されないというのです。その理由を聞いても、「私もわからない。内閣府の人事課に問い合わせても教えてくれない」とのことでした。電話の向こうの事務局長も動揺している様子です。「とんでもないことが起きた」と即座に感じました。

学術会議での活動
 私は、2008年10月から12年間(第21期―第24期)、学術会議の「連携会員」としてその活動に誠心誠意参画してきました。たとえば、現在、北海道の寿都町と神恵内村で問題となっているいわゆる「核のゴミ」(高レベル放射性廃棄物)の処分問題について、どのように取り組んでいくべきか、学術会議は2012年に原子力委員会への「回答」(「回答 高レベル放射性廃棄物の処分について」)を提出し、2015年には、この回答をフォローアップする「提言」(「提言 高レベル放射性廃棄物の処分に関する政策提言――国民的合意形成に向けた暫定保管」)をまとめましたが、私はこれらに検討委員会の委員として関わりました。そこでの議論や提言作りの作業を通じて、学術会議が人文・社会・自然科学の知見を持ち寄って政府に対して独立した立場で政策提言を行うことの意義や重要性を「体感」しました。

道理ない任命拒否
 菅義偉首相による私を含む学術会議会員候補6名の任命拒否は、この間の国会審議を通じて、その道理のなさがより一層際立ってきました。首相は、国会での答弁で、任命拒否の理由として、「民間出身者や若手が少ない」、「出身や大学に偏りがみられる」などと言い出しましたが、これらは、学術会議自体のこの間の改革努力によって、是正されてきているものです。首相がなぜか口にしない会員の男女比もしかりです。また、過去には「事前調整」をしたのに今回はしなかったから任命を見送ったのだなどとも強弁しています。学術会議法のどこにも、推薦された会員候補の任命を首相がこうした理由で拒否できるとする法的根拠はありません。「事前調整」などは、学術会議の会員選考権の侵害そのものです。支離滅裂な理由を次々と持ち出す菅首相の態度は、法治主義に反するものとして断じて許されません。
 また、首相は、憲法15条1項で国民固有の権利とされている「公務員の選定・罷免権」を持ち出して自己の任命拒否の正当化をはかっています。この国民固有の権利の具体化は、国民を代表する国会の権限であり、その国会が定めた学術会議法は、会員の選定・罷免の実質的決定を学術会議に委ねています。首相にはこの法律を「誠実に執行」する義務があります。学術会議法に反する任命拒否こそ、憲法15条が定める国民の権利を侵害するものです。(→続きを読む)

学問の自由の侵害
 菅首相は、今回の任命拒否は、会員の学問の自由の侵害には当たらない、学術会議の独立性を侵すものではないとしていますが、これは、学問の自由の意義を見誤るものです。
 日本国憲法は、大日本帝国憲法にはなかった学問の自由を保障する23条を置いています。これは学術研究が、国家目的に従属して、科学が政治によって歪められた戦前の反省にたって、政治権力からの自由を科学者に保障するものとしての意義も有しています。
 この日本国憲法のもとで、日本学術会議法が1948年に制定され、学術会議が設置され1949年から活動をはじめますが、この学問の自由のうえにたって、学術会議は、「科学が文化国家の基礎であるという確信に立つて、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命」として設立されました。
 学術会議は国費によって運営される国の特別の機関として設立されました。その目的は、「わが国の科学者の内外に対する代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業及国民生活に科学を反映浸透させること」とされ、3条で「日本学術会議は、独立して左の職務を行う」と、独立性を明記することによって、学問の自由に基礎づけられた学術研究の成果をもちより、政治権力に左右されない独立の活動によって、政府と社会に対して政策提言をおこなうことをその職務としています。そのために、5条では、「日本学術会議は、左の事項について、政府に勧告することができる」と政府に対する勧告権も与えられているのです。
 たしかに、学問の自由に裏打ちされた研究を実際におこなう場は大学や研究機関です。学術会議そのものは、学問研究の成果をもちよって、政府に対してさまざまな提言や勧告をおこなう機関です。それでも、学術会議のそうした性格から、大学の自治の保障と同様に、政府からの独立性がもとめられることになるのです。憲法23条の学問の自由は、そうした学術組織の独立性の保障も含んでいるのです。これは、個々のジャーナリストの報道の自由と報道機関の報道の自由、自律性、独立性の保障との関係と類似のものです。

異論排除する政治
学術会議の会員人事が、学術会議の会員、連携会員、多くの学協会の協力の下で自律的に行われることは、学術会議が政府や社会に対して学術に基礎づけられた勧告や提言を独立して行う上で不可欠のことであり、それは憲法23条が保障する学問の自由から導かれることです。今回の事態を発端にして異論を排除する政治が横行し、「物言えぬ社会」の風潮が強まるならば、思想の自由、表現の自由などの精神的自由権、すなわち憲法そのものの危機と言わざるを得ません。私を含めた6名の速やかな任命による憲法の回復を求めます。
2021年が憲法と人権、民主主義、法の支配を取り戻す年になるよう、本紙の旺盛な活動を期待しています。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年1月25日号

posted by JCJ at 01:00 | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする