2021年02月27日

【おすすめ本】田中優子『苦海・浄土・日本 石牟礼道子もだえ神の精神』─声なき声を聴きとって書く、苦界にある命の代弁者=米本浩二(作家・石牟礼道子資料保存会研究員)

 1952年生まれの著者は、大学一年のとき、 石牟礼道子『苦海浄土』(講談社)と出会い、「この世にこういう文学があったのか」と震撼したという。
 以来、半世紀にも及ぶ道子への旅≠言語化したのが本書である。
 他人の辛苦を、わがものとする「もだえ神」たる道子の人物論、作品論を中心に展開している。
 狂気の祖母おもかさまとの日々や、「もうひとつのこの世」を求めた水俣病闘争などをたどりつつ、経済原理優先の社会と対峙した道子の生涯を浮き彫りにする。

 島原・天草一揆を描く『春の城』で、道子は天 草四郎を切支丹の先頭に立って闘った英雄としてではなく、虐げられた人々の哀しみ、憤りに寄り添う「もだえ神」とし て書いた、という。
 <四郎が、キリストのやつしなら、『苦海浄土』 における石牟礼道子は、四郎のやつしともいえる>
 道子や四郎が標榜する「もうひとつのこの世」は、現世では実現しないものだ。では絶望しかないのか。そうではあるまい。『春の城』の闘いや水俣病闘争は語っているはずだ。
 <理不尽に自分たちの生活を搾取するものに対して、否を突きつけ続ける抵抗の中にこそ、刹那の解放と希望がある>と。

 石牟礼道子とは何か。後半、著者は<その正体が最近少し見えてきた>という。<声なき声を聴き取って書く。いわば苦界にあるいのちの代弁者である>という認識だ。
 <道子さんがたたずんだいくつもの渚の風景をもっとお聞きしたかった>という、著者の道子への旅は、これからもつづくのだろう。
(集英社新書880円)
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posted by JCJ at 01:00 | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする