黒川元東京高検検事長の賭けマージャン問題に関して、検察審査会が昨年12月8日に起訴相当の議決を下した。
検察審はくじで選挙権を有する市民から選ばれた11人が、検察官の判断した不起訴処分に関して、その是非を審査する制度である。昭和23年7月に検察審査会法が成立してから、告訴人や告発人による申し立てで審査した事件は、法務省の資料によれば最近までに155557件、職権で審査した事件は13671件の総数169228件にのぼる。うち起訴相当の議決が下されたのは2407件。起訴相当には11人のうち8人以上の賛成が必要と規定されているが、実に1.4%に過ぎない。
法改正で二度の起訴相当の議決を経ると強制起訴となる仕組みが出来たが、この強制起訴になった件数は、わずか14件に過ぎない。
ハイヤー代140万
ここで、改めて経緯を振り返る。
昨年5月に発売された『週刊文春』(5月28日号)が、当時東京高検検事長だった黒川弘務の不祥事を報じた。黒川元検事長が産経新聞記者、朝日新聞社員ら3人と3年前から、産経新聞記者の自宅マンションで賭けマージャンを常習的に行っていたというもの。
私は、同年5月26日に、かつて特定秘密保護法違憲確認訴訟を横浜地裁に提起した仲間に呼びかけ、市民11人の名前を連ね東京地検特捜部に黒川元検事長、新聞記者ら3人を、刑法の常習賭博罪、単純賭博罪、贈収賄罪で告発した。贈収賄罪を入れたのは、黒川元検事長が賭けマージャンのあと、産経新聞記者が用意したハイヤーで毎回自宅まで送迎されていたからだ。ハイヤー代金は3年で140万円に達する。
東京地検特捜部は、告発を受理した。他にも大学の先生や弁護士らが、私たちに続いて次々と告発状を出す騒ぎとなった。黒川検事長は当時の安倍晋三首相が検察庁法を改正し、定年を延長して次期検事総長にすえようとしていた人物だった。
東京地検特捜部は、同年7月10日、常習賭博罪に関して罪とならず、単純賭博罪について起訴猶予、贈収賄罪に関して不起訴とする処分を決めた。
常習賭博罪に関しては、「常習性は認められない」、単純賭博罪については、「被疑者らが戒告処分や報道による批判など社会的制裁も受けた」として起訴するほどのこともない、贈収賄罪に関しては「送迎行為について職務との関連性を認めることはできない」として嫌疑なしとした。
私たちは、この処分に納得できず、7月13日に東京検察審査会に審査を申し立てた。東京に6つある検察審査会のうち第6審査会が担当する運びとなった。その際に有力な証拠としたのが、法務省の内部調査資料である。情報公開請求を経て開示された調査報告書には、黒川元検事長が常習的に賭けマージャンをしていた事実を認めたこと、毎回自宅までハイヤーで送迎されていたことを法務省の調査に認めていることが記載されていた。
単純賭博罪を認める
こうした経緯を経て、12月8日に先の議決が下されたのだ。黒川元検事長の単純賭博罪について起訴相当、新聞記者らの単純賭博罪に関して不起訴不当、贈収賄罪について不起訴相当、常習賭博罪に関しては認められずという議決だった。
議決書は、「被疑者黒川は、東京高等検察庁の長という重責にあったこと、社会の信頼を裏切り、社会に大きな影響を与えたことが被疑者黒川を起訴するか否かを判断するのに重要」と断罪した。
今回の議決を受け、地検は再捜査に着手した。先に記したように起訴相当の議決が再度下りれば、強制起訴となる。
果たして、どんな結果になるか、熱く見守りたいと私たちは考えている。市民の声が権力の不正を断罪した事実は重い。
岩田薫
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2021年2月25日号